令和元年9月1日
新しくなった「授乳・離乳の支援ガイド」
杏林大学医学部小児科客員教授 楠田 聡この著者の書いた書籍
2019年3月に「授乳・離乳の支援ガイド」が約10年ぶりに改定された。そこで,改定に関する研究会委員の1人として,今改定の要点を解説する。
乳幼児期の栄養は,一生の健康維持にとって大変重要である。そのため,栄養管理の専門家が家族に対して乳幼児期から適切に支援する必要がある。今回の改定では,最新の科学的根拠に基づき,特に,「授乳法別の支援」「食物アレルギー対策」「離乳食の支援」に関して内容が更新された。
授乳法別の支援では,授乳に関する母親の不安は,混合栄養の場合に一番強くなることから,栄養法にかかわらず,授乳は母子の絆を深め,子どもの心身の健やかな成長・発達に重要であることが強調された。すなわち,母乳栄養には多くの利点があるが,その効果は限定的なため,人工乳を飲ませることが決定的なマイナスにはならないことが記載されている。また,栄養に関する不安が母親の産後うつにつながらないよう支援することも重要である。さらに,最近発売された乳児用液体ミルクについても,災害対策と関連して説明が加えられた。
食物アレルギーについては,従来の考え方が大きく変更された。これまでは,妊娠中も含め,食物アレルギーの原因となる食品を回避することで,将来のアレルギー疾患の発症を予防できる可能性が示唆されていた。しかし,今回の改定で,アレルゲンの摂取の回避は,アレルギー疾患の予防とならないのみならず,反対に必要な栄養が摂取できない危険性があることから,実施しないと明記された。
さらに,従来は卵アレルギー予防の観点から,離乳食の初期の段階から卵を摂取することは推奨されていなかったが,改定後は,初期からの摂取も可能としている。これはわが国の臨床研究の結果を反映したものであるが,積極的に卵を摂取するほうが将来のアレルギー疾患を予防できるとまでは現時点ではいえない。
同様に,母乳栄養によるアレルギー疾患の予防に関しても,生後六か月間の母乳栄養で,小児期のアレルギー疾患の発症を予防する効果は証明されていないことが記載されている。なお,消化器感染症の減少等の利点があることから,母乳栄養自体は推奨される。
離乳食が開始されると,再度母親の不安が強くなる。そこで,離乳食の進め方の目安が改定され,より具体的な支援が可能となった。開始時期については,従来の生後5~6か月から変更はないが,月齢のみでなく,児の精神運動発達と摂食機能を含めて判断することがより明確に記載された。さらに、離乳食の開始時期を遅らせることは食物アレルギー疾患の予防にはならないこと,また,母乳栄養の場合,離乳食を開始することで,鉄やビタミンDの補充が可能であることが示されている。
改定の概要を解説したが,詳細は本ガイドの本文を参照し,関連職種の皆様には,栄養支援の専門家の立場でこの新しい「授乳・離乳の支援ガイド」を活用して頂きたい。
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