令和元年9月1日
ライフロング・キンダーガーデン
聖心女子大学教授 河邉 貴子この著者の書いた書籍
都内K幼稚園の園内研究会に,ほぼ毎月通っています。子ども達が本当によく遊ぶので,伺う日が楽しみでなりません。園内研究会のテーマは「よく考えてやりぬく幼児~人との関わりを通して自ら学ぶ力を育てる」でした。遊びが面白いと子どもはよく考え,よく考えるとより遊びが面白くなるという好循環が生まれます。K幼稚園では,このスパイラルの中でよく考える子どもが育つこと,そして,それには遊びの目的の達成に向けて,子ども自身が乗り越えていくための保育者による様々な方法での援助(足場)が必要なことを確認しています。
砂場では,5人の子どもが「渦巻づくり」に熱中しています。砂場にヒューム管(コンクリート製の管)を立て,その先にクリアーシートを漏斗状にして差し込み,水を勢いよく流し込みます。水が吸い込まれていくその瞬間に渦が巻くと「竜巻が生まれた!」と大騒ぎ。渦が生まれないと水の流し方が弱かったとか,穴が小さすぎた(大きすぎた)とか,ワイワイ言いながら試行錯誤します。先生は、渦ができると一緒に喜び,できなければ「なんでだろうね」と共に考えます。そこには,クリアーシートの角度を固定できるようにさりげなく洗濯ばさみが用意されたりしています。
保育室では空き箱でつくった車を走らせるコースを積木でつくっています。坂道から車が転落すると,転落防止の積木を坂道に並べる子,「落ちるとサメがいるっていうことね」と言って,「サメに注意」の看板や「サメ」をつくり始める子もいます。「上から下へは転がるけど,下から上へはどうやって自動で行けるのか」と頭を悩ませて仕掛けをつくろうとしている子もいて,先生も一緒に考えています。
探求的な遊びであれ,想像的な遊びであれ,子ども達は心と頭をフル回転させ,より遊びが楽しくなるようにモノに関わります。そして,思いや考えを伝え合える仲間関係が遊びの面白さを支えています。しかし放っておいたのでは,子どもの遊びの質は高まりません。K幼稚園の先生は,子ども達に共感したり,時には環境を提案したり,子どもが自分の力で乗り越えていこうとする姿に,見通しをもった上で粘り強く寄り添い,的確な足場をかけています。
マサチューセッツ工科大学(MIT)教授ミッチェル・レズニックは,創造的思考力は遊びの中で育まれるとして,遊びを大切にしている幼稚園は,直近1,000年間で最も偉大な発明だと言い切ります。そして,彼のメディアラボ(MITの研究所)研究グループに「ライフロング・キンダーガーデン(生涯幼稚園)」と名付けました。子ども達がブロックで遊び,イメージした城をつくったり,物語をつくったりするときに,彼らは創造的なプロセスのあらゆる側面に触れることになると言い,4つのP(Projects プロジェクト,Passion 情熱,Peers 仲間,Play遊び)の大切さを主張しています。まさにK幼稚園の子ども達の姿です。ぜひ来日して,質の高い日本の保育を見てほしい! 自分の発想は間違いなかったと確信することでしょう。
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