令和3年1月1日
未利用資源を活用した新規食品の開発
東京農業大学教授 谷口亜樹子この著者の書いた書籍
私の所属している研究室はデザイン農学科の「食機能科学研究室」であり,食品の機能性を追求しています。さらに,様々な機能性をもつ食品の商品開発を試みています。食品には,栄養・嗜好・生体調節機能の一次・二次・三次機能のほかに「精神安定機能」があるといつも学生の前で講義しています。食品は,お腹だけでなく心が満たされる,人を幸せにしてくれる,満足感・充足感を与える機能があり,これからの時代に必要な「四次機能」だといっています。
当学科の学生には,この四次機能である「人を幸せにする新しい食品の開発をしよう!」といつも話しかけ,これに応じた商品開発に興味をもつ学生が多くいます。学生達と新商品を考え,試作するのはとても楽しいことです。学生には自ら進んで学ぶ楽しさを知ってほしいと願って接しています。
私は特に,生産や食品の製造過程で廃棄される未利用資源を活用した新しい食品の開発に面白味を感じています。今まで行ってきた商品開発のいくつかを紹介します。
シルクの原料である蚕のさなぎから調味料をつくりました。繭を取った後の虫が原料ですが,タウリンが豊富で栄養価の高い調味料ができました。少し苦味があり,他の調味料にない独特な味です。表現するのは難しいですが,味にキレがあり後を引くような,とても美味しい調味料となりました。
また,果実類は摘果(間引き)という操作により,商品価値の高い立派なものができますが,摘果される果実のほとんどが捨てられてしまいます。摘果柿は青くて硬く小粒ですが,発酵させることで,とてもきれいなオレンジ色になり,柔らかすぎず適度な硬さで,食感のよい,コンポートに適した柿になります。フラボノイドの重合体ができることにより,抗酸化作用のほか,骨粗しょう症予防,視覚機能調節機能,認知機能維持作用など,様々な機能性のあることがわかってきています。
豆腐製造過程の廃棄物であるおからは,家畜のえさに使用されますが,実際にはほとんどが捨てられています。おからを揚げ物の衣に使用すると油切れがよく,ソーセージのつなぎに使うと嫌な油脂の後味がなくなります。またスポンジケーキの生地に入れると,保水性のある,とてもしっとりしたものになります。物性が変化し,食感の異なる食品になるためです。
ブナ鮭(ブナの木肌に似た模様が体表に現れる特徴がある鮭)は産卵後にうま味が低下し,商品価値がありません。しかし発酵過程でアミノ酸,ペプチドが生成され,抗酸化作用のある魚醤油になります。鮭は日本人の好む魚種であり,においの気にならないうま味のある調味料になります。
現在は,食品産業廃棄物となりつつあるワインの搾り粕であるパミス,ホヤの殻,給食のフライの廃棄物であるメヒカリ魚の頭部などを扱っています。課題は沢山ありますが,学生達と新商品のアイデアを出し合い,ディスカッションをしながら,前向きな姿勢で商品開発に取り組んでいます。
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