令和3年1月1日
With Coronaの時代に
女子栄養大学名誉教授 林 修この著者の書いた書籍
2020年はまさに新型コロナウイルス感染による自制の1年間だった。中国での感染が報じられた年明け当初,日本では多くの人が深刻な拡がりには至らないだろうと期待も込めて受け止めていた。しかしことごとく裏切られ,瞬く間にアジアから各地へ拡がり,12月に入って世界の感染者数は7,000万人に及び,死亡者数はエイズ,マラリアをはるかに超えて結核の年間死亡者数150万人をも上回った。いまだ収束の兆しが見えない。
人類は,過去にペストやインフルエンザなどの“パンデミック”を経験したはずだが,未経験の病原体に対して残念ながら無力に等しい。有効な治療薬やワクチンの無い状況下では,感染リスクを避ける自粛生活と病原体に抵抗できる体力,なかでも免疫が唯一の頼りと思い知らされた。
コロナ禍に限らず,私たちの免疫能を最良の状態に保つには運動と食事,無理のない生活が基本となる。一般に,ウイルス感染後,それを撃退する免疫抗体が2~3週間で獲得されるが,新型コロナウイルスではつくられる抗体すべてが感染を防ぐとは限らないともいわれる。コロナウイルスにはα~δ型があり,ネココロナのα型では,ワクチン接種で「抗体依存性感染増強現象(ADE)」を起こす「悪玉抗体」ができることが知られている。新型コロナウイルスはSARSやMERSコロナウイルスと同じβ型ではあるが,悪玉抗体ができる恐れが懸念される。
免疫には他に,ウイルス感染細胞を殺すNK細胞や細胞傷害性T細胞が主役となるものがある。抗体を誘導せずに,細胞性の免疫を優位にするワクチンの開発が取り組まれている。新型コロナウイルス感染症患者では,NK細胞と細胞傷害性T細胞の機能低下が認められるが,免疫調節剤でもある栄養補助食品スピルリナが細胞性免疫の増強やインターフェロンγ産生を促しNK細胞を活性化し,ウイルスに抗するとのシステマチックレビューが報告された。
またビタミンDが,自然免疫を強化しサイトカインストームの要因としてのインターロイキン6産生を抑えることから,血中ビタミンDレベルの低い人へのビタミンD補給が罹患リスクを下げる可能性についても,議論されている。
2020年ノーベル医学生理学賞に輝いた「C型肝炎ウイルスの発見」では,感染症の確認から原因ウイルスとして特定された1997年まで四半世紀が費やされた。新型コロナウイルスも,世界の人々の間で克服されるまで長い時間向き合うことになるだろう。
昨年の2月末,政府からの唐突な一斉休校要請は,教育現場や家庭に大きな負担と混乱をもたらした。余儀なくされたオンライン授業では,その準備に割かれる時間と教育効果との間で,多くの教員が心身ともに疲労感を覚えたに違いない。新入学生にとっては,交友の機会が奪われてしまった。他の人との触れ合いから自分を見つめることのできる大事な時間を取り戻すことはできるのだろうか。それぞれの立場で,何とか乗り切ることを願うばかりである。
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