ま え が き
食品の生産,流通,消費という川の流れにたとえられるシステムを消費の側から,いわば川を遡行する形で観察,研究していくことにより,よどんだ流れを浄化するようなシステムが見えてこないか。そのような学問体系を修得した人たちに消費や流通の現場で活躍していただき,より豊かな食生活が構築できないか。あるいは,新しい流れもできてくるのではないか。このような考えにより,フードスペシャリストという新しい資格制度が創設された。
この資格が発足して約27年となるが,多くの学生諸氏が資格取得を目指して勉学に励んでいる。この間あいついで食品不祥事が起こり,食品の品質表示基準が改定されるなど,フードスペシャリストを取り巻く環境も激しく変化している。日本人における食生活は一層の広がりをみせ,フードスペシャリストには,より広く深い知識が求められるようになってきた。フードスペシャリストに寄せられる期待はますます大きくなっているといえよう。
本書はフードスペシャリスト養成課程の必修科目である「食品の官能評価・鑑別論」のテキストとして編纂されたものである。本書が刊行されたのは1999年のことで,爾来2004年に新版,2014年に三訂版が発行され,今回約10年ぶりに四訂版を発行することとなった。
初版では官能検査,化学的評価,物理的評価および個別食品の鑑別法という内容構成であったが,新版では初版の理念は忠実に守りながら,新たに食品の品質について章を設けて食品表示を取り上げ,また菓子などの食品項目を追加して充実させた。難解とされる部分についてはできるだけ平易にすることを試みている。
食品を選択するという行為には多くの背景と動機が存在しており,その行為を補助することが求められるフードスペシャリストに必要とされる知識や技能は,非常に多岐にわたっている。しかしながら,どんな場面においても種々の食品についての深い知識と,それらの品質を見抜く技能が基本になくてはならない。化学的・物理的な評価法はもちろんのこと,嗜好に直接結びつく官能的な食品の評価法の技術はフードスペシャリストにとって必須のものである。
今回の改訂による,四訂版では,種々の食品に対する深い知識と,それらの品質を見抜く技能を修得するという,本テキスト初版からの理念については変わらないように心がけた。なかでも本改訂では,実際の現場で行われる官能評価を意識して内容を改め,個別食品の鑑別の章をできるだけ多くの食品についての知識を修得できるように充実させた。
本書は初心の学生諸子にも平易にわかりやすく,かつ専門技術者としてのフードスペシャリストに必要十分なものとするにはどうすればよいか,努力を尽くしたつもりである。しかしながら,でき上がったものはまだまだ十全なものとは言い難く,今後の試行錯誤により改良の必要性を痛感している。
フードスペシャリストを志す学生諸子が,本書を基礎にその名称に恥じない人材に成長されんことを心より願う次第である。
2024年2月
責 任 編 集 青 柳 康 夫
筒 井 知 己