は じ め に
管理栄養士は国家資格です。したがって,科学の進歩と社会の変化に的確に対応するために,常に知識の修得,スキルの向上を図り,専門職として国民のために役立てる能力を身に付けることが求められます。
平成28年3月に実施された第30回管理栄養士国家試験から,改定された出題基準が適用され,応用力試験の出題数が20問に倍増し,栄養管理を実践する上で必要な思考力,判断力がより重視されるようになりました。第32回管理栄養士国家試験からは3月中に合格発表が行われることからも,保健・医療・介護・福祉・教育などの現場では,これらの能力を獲得した人材を必要としていることがわかります。
管理栄養士の業務に欠かせない,「日本人の食事摂取基準」も2015年版では,健康の保持・増進,生活習慣病の発症予防とともに重症化予防にまで視野が広がっています。平成27年12月公表の「日本食品標準成分表」もまた,食品の種類や成分について,栄養・健康をめぐる研究の進展による情報ニーズの変化に対応するために大規模な改訂が行われました。
さらに,平成28年度の診療報酬の改定では,栄養食事指導料が20年ぶりに評価見直しとなり,大幅な点数増と対象疾患の拡大が実現しました。地域包括ケアシステム推進のための取り組みを強化すべく,管理栄養士もいよいよ在宅に目を向けざるを得ない状況です。
このような情勢のなか,本書では具体的な教育案を多数示すことで,知識や態度,行動を変容させる方略をイメージできるようにし,個人・小集団・集団それぞれを対象とした効果的な栄養教育において,現場ですぐに実践できる力を身に付けられるよう編纂しました。今までの類書であまり扱われていなかったロールプレイや SP 演習(模擬患者を用いた面接技法),OSCE(客観的臨床能力試験)を丁寧に取り扱い,これらシミュレーション学習をとおしてこれからの管理栄養士に必要とされる高度な実践力の育成を目指すとともに,学生が苦手としがちな統計学にも頁を割いてわかりやすく説明しています。
本書は,講義書『マスター栄養教育論』(建帛社)の内容とあわせて作成しました。詳細な理論は講義書にゆずり,実習・演習を効果的に進めることができるよう工夫をしています。管理栄養士養成校の学生さん,現場で活躍している管理栄養士の方々の学びに,併せて活用いただきたく思います。また,よりよい書となるよう,皆様のご批判,ご助言を賜れれば幸いです。
最後に,講義書とあわせて本書の作成の機会をくださり多大なご支援を賜りました建帛社筑紫和男氏はじめ刊行にご尽力くださったすべての皆様に厚くお礼申し上げます。
2016年4月
編者・執筆者を代表して 佐 藤 香 苗
三訂にあたって
本書は,2016年(平成28年)に初版を発行し,その後の変遷を汲み2021年(令和3年)に改訂版を経て,版を重ねてきました。改訂版の発行以降,栄養教育に関連する新知見や制度の動向を反映して,ここに三訂版を発行することになりました。
改訂の主なポイントとして,2023年(令和5年)に改定した「管理栄養士国家試験出題基準(ガイドライン)」において,大項目「3 理論や技法を応用した栄養教育の展開」の内容が,「ライフステージ別の栄養教育」から「多様な場(セッティング)におけるライフステージ別の栄養教育の展開」に変更されたことを受け,本書では第3章をより実践的な内容となるよう再編しました。栄養教育の実施においては,対象者の特性はもとより,実施する場を考慮する必要があります。そこで,栄養教育プログラムの作成手順を6W3H1Fの枠組で整理し直し,対象者がおかれている背景や環境を踏まえて行動変容・習慣化を実現し得る栄養教育計画の具体例を示しました。
その他,2024年度(令和6年度)からは我が国の健康づくり施策として「健康日本21(第三次)」が実施,2025年度(令和7年度)からは「日本人の食事摂取基準(2025年版)」が適用されるなど栄養教育を取り巻く制度環境の変化を汲み,持続可能な社会の実現とすべての人々が健康で栄養バランスの取れた食事にアクセスできる環境の両立を考慮して内容を見直しました。
本書と対をなす『マスター栄養教育論』(2025年現在四訂,建帛社)では,本書で扱っている実習内容がより効果的に取り組めるよう,栄養教育の理論的基礎,栄養教育マネジメントについて丁寧に解説しています。本書では,理論書で解説している内容を踏まえてロールプレイや,栄養教育計画案の立て方を具体的に示していることで,管理栄養士国家試験の出題内容に十分対応できるものとなるよう編纂しています。また,今版より演習課題の見本解答例をさらに充実して用意しました。本書を教科書採用いただいた先生のみの特典となりますが,ご活用ください(詳しくは「◎本書の活用にあたって」をご参照ください)。
今回の改訂では,初版刊行以来,編者としてご尽力いただいた杉村留美子先生に替わり,安達内美子先生を編者に迎えさらなる内容の洗練を目指しました。また,執筆陣には新しく3名の先生方にご参画いただき,新たな体制の下で刊行に至りました。記述内容には十分注意を重ねておりますが,不十分な点も多々あるかと思います。さらによりよい教科書となるよう,今後も読者の皆様からの忌憚ないご意見をいただければ幸いです。管理栄養士・栄養士養成校のテキストとして,初版と変わらずご活用いただけることを心より祈念します。
最後に,三訂版刊行の機会をいただき,その過程においてこれまで同様,ご尽力・ご支援を賜りました建帛社代表取締役社長筑紫和男氏をはじめ,編集担当各位に衷心より御礼申し上げます。
2025年4月
編者・執筆者を代表して 佐 藤 香 苗