各章に「アウトライン」の頁を設け,初学者が要点を把握して概要を俯瞰しながら学習できる社会福祉の入門書。社会福祉における各分野の実態や今日的な課題・動向,最新の統計や法改正等を踏まえた三訂版。
内容紹介
まえがき
はしがき
わが国に「社会福祉」という用語が初めて登場したのは,1946(昭和21)年に制定された「日本国憲法」においてです。第25条で,「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。②国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と規定されています。このように「日本国憲法」に社会福祉という用語が示されて以来,「社会福祉」という用語は法律用語だけではなく,私たちの日常生活においても身近な用語として使用されるようになりました。
社会福祉(social welfare)の「社会」という言葉は,人間同士の関わり方や連帯性を表し,「福祉」という言葉は,幸福,福利,安寧,公安,救護を意味し,望ましい状態に変える,といった内容を含んでいるともいわれています。近年,福祉という言葉は国際的には“well-being”という用語が多く用いられるようになってきましたが,社会福祉の意味は,「共同体に集う人々が助け合い,連帯して幸せな生活を追求し,守る」ということであり,社会福祉を支える基本原理として「人間尊重の理念」があります。
人間尊重の理念の第1は「基本的人権の尊重」です。社会福祉を推進する上では,利用者一人ひとりを個別にとらえる必要があり,「日本国憲法」では個人の尊重がうたわれています。
第2は,「ノーマライゼーション」の思想です。地域で,障害のある人や高齢者など,誰もが地域で分け隔てのない対等の生活を維持する,すなわち普通の生活を営むことを当然とする福祉の基本的な考え方です。
第3は,個人としての「自立」です。社会福祉の目的の1つは,個人が可能な限り「自立」を獲得することにあります。自立の原則は,自己決定と自己実現を利用者が獲得することにありますが,人間らしい生き方の選択は,利用者自らの選択にあります。
第4は,「参加と連帯」です。人間は異質な人たち同士の集まりにおいて生活しています。地域社会でみんながノーマルに生活するということは,異質な者同士がその違いを認め合って共生することです。
この4つの社会福祉を支える原理は,相互に支え合う概念であり,これらがそろうことで,初めて社会福祉が目指している基本的人権が保障され,ノーマルで誰しもが安心して生活できる社会の実現が可能となると解されます。
本書は2014(平成26)年に初版発行後,児童福祉法の改正や「保育所保育指針」「幼稚園教育要領」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」の新たな告示とともに,「指定保育士養成施設の指定及び運営の基準について」の改正が行われ,「社会福祉」の教授内容の一部が改められたことを受け,「改訂版」を発行し,2022(令和4)年には法改正等に対応して「改訂第2版」を発行しました。そして,2023(令和5)年のこども家庭庁の設立や少子高齢化の進行等にともなう様々な法改正への対応や統計・調査のデータ更新等を行う必要性が生じ,新たな執筆者も迎えてこのたび「三訂版」を刊行する次第です。
本書のタイトルを『はじめて学ぶ社会福祉』と題したのは,社会福祉を実践する保育士等の養成校の学びの中で,最初に理解してほしい教科目が「社会福祉」だからです。その学びを学生の方々に理解していただくため,できるだけ平易な文章にしようと著者同士での話し合いで作成しました。しかし,法律や専門用語等,どうしても平易に解説できない部分もあります。そこで各章に,アウトラインとして「要点」と「キーワード」を設けました。これらを参考にして学びを深めていただきたいと願っています。そして,保育を始めとした福祉や医療,教育など人と関わる現場における実践では「福祉の心」が欠如しては成り立たないということを十分理解してください。
2024年4月
著者を代表して 小 野 澤 昇
目 次
第1章 社会福祉とは 1
1.「社会福祉」とはどのようなことか ―社会福祉の理念―
2.社会福祉の基盤となる人権
3.人の生活と社会福祉
4.社会福祉を取り巻く現状
第2章 社会福祉の背景と歴史
1.社会福祉の背景
2.日本の社会福祉の歴史
3.欧米の社会福祉の歴史(イギリス,アメリカ,スウェーデン)
第3章 社会保障と社会福祉制度
1.私たちの生活を支える社会保障制度
2.社会福祉制度の概要
3.社会福祉を支えるための法制度
第4章 社会福祉の行財政と実施機関
1.社会福祉行政
2.社会福祉の実施機関
3.社会福祉財政と費用負担
第5章 社会福祉の施設と専門職
1.社会福祉施設
2.社会福祉の専門職
3.社会福祉専門職の職業倫理
第6章 子どもと女性の福祉
1.子ども家庭福祉の現状
2.子ども家庭福祉に関する法規
3.子ども家庭福祉の実施体制
4.母子・女性福祉
第7章 障害者の福祉
1.障害者の生活の現状と課題
2.障害の概念と分類
3.障害者の福祉に関する法規
4.障害者福祉の実施体制とサービス
5.障害者福祉の今後の課題
第8章 高齢者の福祉
1.高齢者福祉に関する現状・課題
2.高齢者福祉の実施体制
3.介護保険制度
第9章 生活困窮・貧困と福祉
1.生活困窮・貧困について
2.生活困窮・貧困にかかわる法制度
3.所得保障
第10章 社会福祉における相談援助
1.相談援助の意義と役割
2.相談援助の対象
3.相談援助の理論と原則
4.相談援助の技術と展開過程
第11章 社会福祉における利用者の保護
1.私たちの人権と権利侵害について
2.福祉サービス利用者の権利擁護と苦情解決について
3.情報提供と第三者評価とは
第12章 社会福祉の動向と課題
1.社会の動向
2.少子高齢化への対応
3.在宅福祉・地域福祉の推進と「地域共生社会」実現への課題
4.諸外国の動向
索 引
この本をみた方に
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