平成22年9月1日
炎症と栄養の新たな視点からリウマチを考える
日本女子大学 教授 佐藤 和人この著者の書いた書籍
「炎症の四徴候を述べよ」の問いには「腫脹・発赤・発熱・疼痛」とすぐに正解が返ってくる。しかし,「炎症と栄養のかかわりを述べよ」の問いには「???」。
私は臨床栄養学の教育・研究に携わる以前に,リウマチをはじめとする「炎症性疾患」の診療や研究の現場にいたが,この問いに対する答えは持ち合わせていなかった。そのため,「リウマチでは食事のどんな点に気をつければよいのか?」「膠原病に効果のある栄養療法はあるのか?」「関節炎に効くと周りがいろいろな食品を勧めるため迷ってしまう」など食事・栄養について疑問や不安をもつ患者さんに対して,「バランスのよい食事を」などといい加減なアドバイスしかできなかった。私たちが医学部で学んだ時代に栄養学の確かな講義を受けた記憶はなく,今でも系統的な栄養学の教育は十分ではないだろう。
なかでもリウマチ・膠原病は臨床栄養学で最も遅れている分野の一つであり,糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病と異なり適切な栄養療法が確立されていない。しかし,最近の研究によって炎症における栄養素のもつ機能や腸管免疫系の調節機構などが少しずつ解明されるに従い,n‐3系多価不飽和脂肪酸,抗酸化栄養素,プロバイオティクスなどの効果,さらに腸管免疫系を介した経口トレランス誘導やサイトカインバランス調整による炎症抑制や免疫異常の是正など,栄養を介した病態の調節に対する期待が高まってきている。また,脂肪細胞由来のアディポカインの機能が次々と解明され,TNFαやIL‐6などの炎症性サイトカインのみでなく,レプチンやアディポネクチンなどが炎症の病態にかかわることが注目されている。その役割は未だ議論の分かれるところであるが,脂肪組織の病理やアディポカインの切り口からも炎症と栄養の研究が急速に進展している。
一方,炎症と栄養については栄養評価の問題がある。栄養評価の指標として身体計測に加えて,血清アルブミン,ヘモグロビン,総リンパ球数などの検査所見が一般的に用いられるが,これらの因子は炎症や疾患活動性,治療により変化する因子であり,リウマチをはじめとする慢性炎症性疾患における適切な栄養評価指標が必要である。
炎症と栄養の問題は古くて新しく,明確に解析できないもどかしさがある。しかし,炎症という概念が肥満や動脈硬化,糖尿病など代謝性疾患の病態とも深くかかわることが明らかになりつつある現在,避けて通れない重要なテーマである。
臨床の現場で医師や管理栄養士,コメディカルスタッフが,炎症と栄養という視点からも問題点を共有し適切な対応を行う必要がある。そのためには最新の知識,エビデンスを学び,病態をきちんと理解できる管理栄養士の育成が急務であろう。
(なお,最新の臨床医学に基づき栄養学の知識を網羅した『医科栄養学』が建帛社より9月10日に刊行される。)
目 次
第92号平成22年9月1日
発行一覧
- 第121号令和7年1月1日
- 第120号令和6年9月1日
- 第119号令和6年1月1日
- 第118号令和5年9月1日
- 第117号令和5年1月1日
- 第116号令和4年9月1日
- 第115号令和4年1月1日
- 第114号令和3年9月1日
さらに過去の号を見る
- 第113号令和3年1月1日
- 第112号令和2年9月1日
- 第111号令和2年1月1日
- 第110号令和元年9月1日
- 第109号平成31年1月1日
- 第108号平成30年9月1日
- 第107号平成30年1月1日
- 第106号平成29年9月1日
- 第105号平成29年1月1日
- 第104号平成28年9月1日
- 第103号平成28年1月1日
- 第102号平成27年9月1日
- 第101号平成27年1月1日
- 第100号平成26年9月1日
- 第99号平成26年1月1日
- 第98号平成25年9月1日
- 第97号平成25年1月1日
- 第96号平成24年9月1日
- 第95号平成24年1月1日
- 第94号平成23年9月1日
- 第93号平成23年1月1日
- 第92号平成22年9月1日
- 第91号平成22年1月1日
- 第91号平成21年9月1日
- 第90号平成21年1月1日
- 第89号平成20年9月1日
- 第88号平成20年1月1日