平成22年9月1日
まともな保健師教育を
日本看護協会 井伊 久美子この著者の書いた書籍
看護基礎教育の年限延長・充実のための60年ぶりの保健師助産師看護師法の改正から一年である。また,文部科学省が「大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会」の第一次報告案を提示して一年である。
医療の高度化・在院日数の短縮化・在宅医療など療養の場の多様化といった変化に伴い,看護師にはチーム医療の調整役としての高度な能力を求められ,この期待に応えるため,看護基礎教育のカリキュラムが過密になっている実態がある。加えて,看護系大学では,保健師・助産師教育を併せて実施していることでさらに過密カリキュラムとなっている。
とりわけ保健師教育については,保健師免許取得資格を看護系大学の卒業要件として課したことで,大学の増加に伴い,実習場の確保に困難を来たしている。中には10日間の地域看護実習として一保健所に17名の学生を配置し,ほとんど所内講義と部分的な見学に終始するという,実習とは言い難い実習の現状もある。
また,保健師養成数9000人に対し採用数は800人弱という大きくバランスを欠いた需給になっていることも問題視されている。
こうしたことは看護師教育と保健師教育,さらには助産師教育を4年間で行う統合化したカリキュラムの弊害である。
看護系大学に保健師教育の選択を認めず,保健師国家資格取得を課してきたことについては,法的な根拠はない。平成16年度「保健師学生の実習指導に関するあり方調査研究事業」の報告によると,この時点ですでに,行政保健師として就職後,すぐに必要な項目(家庭訪問・健康教育)を体験させていない大学が25%であった。統合化したカリキュラムでは,保健師課程の科目を看護師課程数科目に充て二重三重に読み替えており,国家試験受験資格にも係る教育内容の不足が懸念されていた。
第一次報告案では,統合化したカリキュラムの問題が大きい保健師教育について,「今日,保健師が対応している健康に関する諸課題は複雑化し,虐待・自殺予防を含むメンタルヘルスや,健康危機管理,生活習慣病予防,産業保健における労働環境の改善,あるいはホームレス対策等,活動領域は拡大している。また,施策化能力や企画調整力は,活動領域を問わず求められ,組織のリスクマネジメントや経営に関わる力量も求められている。(略)今後は学士課程を看護師教育のみの教育課程とするか,保健師教育を含めた教育課程とするかは,各大学が選択するものとする。なお,学士課程における保健師教育に選択制を導入すること,専攻科における保健師教育の実施,あるいは大学院において高度専門職業人に相応しい保健師教育を実施すること等の方策を通じて,保健師教育を充実していくことが望ましい」としている。保健師教育の選択制は当然の結論であり,まともな保健師教育であるよう関係者は改善の努力をするべきである。
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第92号平成22年9月1日
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