平成23年1月1日
バランスのとれた学びの重要性と家庭科教育の果たす役割
日本家庭科教育学会副会長 島根大学教授 多々納 道子この著者の書いた書籍
日本における教育の目的は,教育基本法に記されている目的を引き合いに出すまでもなく,「豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期す」こと,すなわち人格の完成を目指したものである。この目的を達成するための教育課程編成の一般方針として,小学校・中学校・高等学校の学習指導要領には,それぞれ「児童(生徒)の人間として調和のとれた育成を目指し,地域や学校の実態及び児童の心身の発達段階や特性を十分考慮して,適切な教育課程を編成するものとし,これらに掲げる目標を達成するよう教育を行うものとする」とされている。すなわち,バランスのとれた人間の育成であり,そのためにバランスのある教育課程の編成が重要だということである。
身体の成長・発達に必要な栄養素の世界にも同じように,バランスが大事であることを示す現象がある。アミノ酸の中でもリジン・トリプトファン・イソロイシンなどの9種は,必要だが体内でつくることができないので,必須アミノ酸と呼ばれている。この必須アミノ酸は,食べ物から摂取するアミノ酸の種類と量が,身体に必要なものと過不足なければ無駄なく利用できる。しかし,一種類でも不足すると,ほかのアミノ酸の一部分は利用できなくて無駄になるというものである。
では,現在の学校教育は,本来の教育目的を達成できるように,教育課程のバランスがとれているであろうか。無駄な働きをするものはないであろうか。
2008年改訂の教育課程において,小・中学校の合計総授業時間数に占める各教科の時間数をみると,生活やものづくりについて学ぶ家庭科,技術・家庭科は教科であるにもかかわらず総合的な学習の時間よりも少なく,2009年改訂の高等学校の教育課程では,卒業要件の単位である74単位以上のうち,家庭科はわずか2.7~5.4%を占めるに過ぎない。芸術系の教科においても家庭科,技術・家庭科ほどではないが,同様の傾向にある。教育の目的と実際の教育課程の間には,大きな食い違いが生じているのである。
私たちの生活を取り巻く環境は今や大きく変化し,持続可能な発展をするには男女共同参画の視点から,世界の人々とワーク・ライフ・バランスのとれた生活を営むための知識や技術の習得,消費者教育,環境教育などの重視が求められている。このような時代だからこそ,生活やものづくりの学びの充実が必要であり,これらの学びを充実させることは,教育課程のバランスをとる近道になる。
日本家庭科教育学会では,学びのバランスをとり,子どもたちが教育本来の目的を達成できるように,日本家政学会・日本産業技術教育学会・日本消費者教育学会などの学会や教育関係団体などに呼び掛けて,2010年9月18日に「生活やものづくりに必要な学びの充実をめざすネットワーク」を設立した。今日の学校教育の目的や教育課程を検討し直し,自分たちの生活やものづくりに必要な学びを充実させるために活動している。ともに手を取り合って活動しよう。
詳細は以下のURLをご参照いただきたい。
http://www.geocities.jp/seikatsu_monozukuri_nt/
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