平成27年9月1日
若い保育者のキャリア形成を支える
仁愛大学教授 石川 昭義 この著者の書いた書籍
子ども・子育て支援新制度が平成27年4月に本格施行された。幼保連携型認定こども園や小規模保育等を含め,新しい仕組みの中で教育・保育のニーズに応えながら,すべての子どもの健全な育成を図らねばならない。ニーズに応えるという意味では,子どもを受け入れる量的な整備を図るとともに教育・保育の専門職としての保育者(保育士,幼稚園教諭,保育教諭等の総称として)の安定的確保が必要不可欠となる。
近年,指定保育士養成施設を卒業する人は年間約4万人である。そのうち,保育所に就職する人は約2万人とされる(全国保育士養成協議会の資料による)。このように,毎年多くの新人が就職しているにもかかわらず,保育士不足が解消されないと言われる。なぜなら,もう一方で離職が生じているからである。年度の途中に乳児の入所希望があった際に,受け入れられるかどうかは,配置基準上増員となる新たな保育士がみつかるかどうかにかかっているという話も聞こえてくる。潜在保育士の掘り起こしにも苦戦している。
私は「若い保育者が,なぜ今の仕事を選んだのか」という,その気持ちに対して,当人も,採用する側も向き合うことが大切ではないかと考えている。私が新任の保育士を対象に行ったアンケート調査では「保育の仕事を現実的に意識し始めた時期」は,「小学時代」20.3%,「中学時代」18.8%,「高校時代」42.2%で,「大学時代」と答えた人は12%にとどまる。しかも「保育の勉強を志したことに影響を与えた出来事」の上位(複数回答可)は,「自分の幼い頃の保育所,幼稚園などの先生の思い出」56.3%,「中学校や高校の時の職場体験」43.8%である。
つまり,将来の仕事を幼い頃の思い出に結び付けながら,職場体験も行い,人生の比較的早い段階で自らの人生を描いていた人が多い。「環境や勤務条件が合えばずっとこの仕事を続ける」と回答した人は半数である。そのような気持ちの人が現場に入っている。
気になる数字もある。「保育者として憧れる人,モデルになる人」が,今の職場にも,職場以外にも「いない」と回答した人は17%であった。このような若い人の気持ちを汲みながら,仕事の継続につながる支えが必要ではないだろうか。
厚生労働省は,委託事業において,本年6月に「保育士が働きやすい職場づくりのための手引き」を出している(楽天リサーチ)。ここでは,職員の育成方針を明確にして,その方針に沿って保育士が研修に参加できるようにするための環境整備が大切だとしている。あの先生のようになりたいと思える人がそばにいて,経験年数とともにキャリアアップしていく道筋が名実ともに見えるような仕組み,そして,過去から未来へとつながる人生の中で,保育者としての自分らしい生き方を展望できるような仕組みを,養成教育段階と職場が協働して整えていくことが大切だと思う。
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