平成27年9月1日
学校教育法改正、雑感
東京家政大学教授 岡 純この著者の書いた書籍
文部科学省は中央教育審議会の答申に基づき,学長がリーダーシップを発揮して大学の運営が素早く円滑に行われるようにと学校教育法の一部改正を提案した。改正案は,昨年(2014年)の通常国会で成立し,本年四月より施行された。
このところ「大学のガバナンス」という大学教員にはあまり馴染みのなかった言葉をよく耳にする。中央教育審議会の議論では,実業界の関係者から教授会に対する学長の権限を拡大すべきだという意見が強く表明されていたと聞く。企業のようにトップダウンによる迅速な決定が多くの課題を抱えた現在の大学を,時代の変化に即応して改革するにあたっても要請されたということなのだろう。
東京家政大学では,この法改正に伴い本年(2015年)2月の全学教授会で教授会規程の改正が議論され,承認された。改正された規程によると,教授会は「教育・研究およびそれらの組織・運営に関する意思決定機関」から「教育・研究に関する事項を審議する機関」として位置づけられた。また,審議された事項の意思決定は学長が行うことも新たに明記された。
細かいところでは,学長が議長を務めていた従来の全学教授会は決定権者の学長が審議機関の議長を務めるという矛盾を解消するため廃止された。新たに全学的事項について審議するものとして全四学部の合同教授会が設けられた。全学部合同教授会では,年度初回の会議で学長が所信を表明する機会をもつこととなった。議長は各学部長が輪番制で務める。
また,学部教授会も同様に意思決定機関から審議機関と位置づけられた。さらに,各々の教授会の審議の結果は学長に対する意見として扱われ,議長である各学部長が学長に報告して承認を得,次回の教授会で学長承認についての報告をするルールも確立された。
今回の学校教育法改正が従来の教授会の性格を変えたことは否めないだろう。本学の規程改正の議論でも,教授会が教学関係の最高の意思決定機関であるという長年にわたり維持されたシステムにノスタルジアともとれる意見を表明する教員もいたが,現実問題として法改正は遵守せざるを得ない。
ところで,京都大学人文科学研究所の山室信一・前所長は,いみじくも「大学は個性豊かな商店街のような組織」と表現している。地方都市では,駅前商店街を活性化するために商店主たちは知恵を絞りユニークな企画を展開している。現在の大学の教育・研究の内容は多岐にわたり複雑なものになっている。現場の教員でなければ十分な判断ができないことも多いと思われる。今後とも教員の自律的な判断が教育・研究の多様性の実現にかかわってくることには変わりはないだろう。
本学の教授会においても教員の活発な審議はますます必要となるであろう。理事会,学長,事務組織と教員の間の密接な連携のもとに本学のさらなる発展が図られるように期待しながら,今回の教授会規程改正にしみじみと時代の趨勢も感じとった次第である。
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