平成28年1月1日
「HACCP」を取り巻く国際的状況
近畿大学教授 泉 秀実この著者の書いた書籍
HACCP(ハサップ)は,世界で最も効果的で柔軟性のある食品衛生管理法として,国際的に推奨されている。1960年代に米国のNASA(米国航空宇宙局)で生まれたHACCPの概念は,1993年にコーデックス(国際食品規格)委員会がガイドラインを発表して以来,本ガイダンスを多くの国々や事業機関が認可あるいは発展させて,欧米ではすでに1990年代から(欧州がコーデックスのガイドラインに準拠するのは2006年),義務的に実施されている。
一方,日本では1995年に,厚生省(当時)からHACCP方式の承認制度(総合衛生管理製造過程の承認制度)が,任意制度として導入された。その後もHACCP支援法の改正・延長や都道府県の管理運営基準にHACCP導入型基準を加えるなど,普及に向けた施策が施されているが,義務化された欧米との温度差は,依然大きい。
すべての国々で実施されているHACCPシステムは,コーデックス委員会が示した7原則を満たし,これらの7原則を組み込んだ12の手順に従っている。このため,その原理原則は変わりようがないが,高度衛生管理をさらに向上させるため,HACCPを取り巻く状況は,国際的にみて,変わりつつある。
食品工場で実施されるHACCPの実施のみで,すべての食品の安全が保障されるわけではない。農場から食卓までの食品の安全を確保するためには,原材料の生産から消費に至るまで,衛生管理法の連携的な取り組みが必要となる。国際的に推奨されている衛生管理法として,栽培・飼養ではGAP(適正農業規範),製造・加工ではGMP(適正製造基準),製造から消費にかけてはGHP(適正衛生規範)が知られている。これらが前提条件として実施されて,はじめてHACCPが有効的な食品衛生管理法として機能することが,研究レベルで証明されている。
このことは,HACCPの公的な国際的認証制度にも影響を及ぼしている。非政府ベースのHACCP認証として,ISO(国際標準化機構)が発行する国際規格ISO22000:2005(食品安全マネジメントシステム―フードチェーンのあらゆる組織に対する要求事項)が食品業界では知られているが,これに加えて,ISO22002(食品安全のための前提条件プログラム)も併せた認証が望まれている。また,別にFFSC(食品安全認証財団)が開発したFSSC22000は,上述のISO22000:2005とISO22002を統合した認証と考えて差し支えなく,世界的な食品製造・流通業界団体が承認したベンチマーク規格として,注目されている。
さて,TPP(環太平洋経済連携協定)を踏まえ,農林水産物とその加工品の輸出を強化し,攻めの農業を達成するためには,HACCPを中心とした食にかかわる衛生管理法の普及と,それに対する食品安全認証スキームの構築が,今後の日本の大きな課題である。
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