建帛社だより「土筆」

平成28年9月1日

医療の必要な子どもたちとこれからの医療保育への期待

東京家政大学・短期大学部教授  及川 郁子この著者の書いた書籍

 児医療の進歩を背景として多くの命が救われるようになり,日本は乳児死亡率世界最低の健康国である。しかし,多くの命が救われる一方で,新生児集中治療室を退院後も人工呼吸器や気管切開,胃ろう,酸素療法などの医療的ケア(治療ではなく生活行為の一部として行われる)を必要とする,また慢性的な疾病や障害をもちながら育ち,大人になっていく子どもたちが増えている。
 のような子どもたちにとって地域社会は,決して居心地のよい場所ではない。ことに医療的ケアの必要な子どもたちは,通常の保育所や幼稚園での集団生活を希望しても受け入れてもらうことが困難な状況が多い。管理が難しい,もしものときに対処できない,一人だけ特別扱いできない等々。
 護者の付き添いを条件に何とか受け入れてくれる施設もある。また,自宅で内服や自己注射など行いながら,周囲には病気と気づかれずに(または,気づかれないように),通園・通学している子どもたちもいる。
 般成立した「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律」(平成28年6月3日公布)によると,日常生活を営むために医療を要する状態にある障害児(「医療的ケア児」としている)の支援に関して,関係機関の連携体制の構築と実効性のある取り組みを図ることとしている。その中では,保育機関にも触れ,子ども・子育て支援法に基づく基本指針を踏まえ,「障害,疾病など社会的な支援の必要性が高い子どもやその家族を含め,すべての子どもや子育て家庭を対象とし,一人ひとりの子どもの健やかな育ちを等しく保障することを目指すこと,保育所等,幼稚園,認定こども園においても,医療的ケア児のニーズを受け止め,対応を図っていくことが重要である」としている。
 療の有無にかかわらず,子ども同士の触れ合いの中で体験する,楽しいことや嫌なことも含めたすべてが生きる力となり,その子なりの心理・社会的自立につながっていく。欧米では,病気や障害のある子どもたちを「特別なニーズをもつ子どもたち」として,診断されたときから将来を見据えて自立に向けた支援を始めており,3歳頃の集団生活が最初のステップとされている。
 のような子どもたちの保育では,その分野において一定の知識や技術を有した者が必要であり,支援のコーディネートを図ることが先の法改正の中でも示されている。まさに,医療保育の出番である。保育を専門基盤とし,医療の知識を備えた保育職が中心となって,近い将来,医療現場での経験を生かし,保育所や幼稚園等で支援コーディネーターの要となって活躍することを期待したい。医療を要する子どもたちは着実に増えており,担い手の育成がこれからの課題となっていくだろう。

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第104号平成28年9月1日

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