平成29年1月1日
子育て支援の現代的課題「親育ち支援」再考
和洋女子大学副学長・教授 太田 光洋この著者の書いた書籍
「子育て支援」が横いつしている。その意味するところはきわめて多義的で,人や文脈,場面によっていわば「都合よく」使われている。とりわけ,待機児解消に向けられた保育所等の整備,幼稚園の「預かり保育」,一時預かり事業等,いわゆる「預かり型支援」が重点的に進められている。
待機児解消に焦点化した諸施策は,一方で,保育士不足ともあいまって,保育の物理的環境基準と保育者の資質条件を下げることにつながっている。皮肉なことに,保育・幼児教育が注目される国際的な動向のなかで,「保育の質」に関する議論も盛んであるが,国内での保育格差が広がっている。
子育て支援が一般化し,子どもをもつ保護者が少しでも子育てをしやすいと感じられる雰囲気や環境が整ってきたことは望ましいことである。働く意欲と能力のある子育て中の保護者が安心して子育てと仕事を両立できる状況をつくることも大切である。
しかし,こうした状況のなかで今一度,目を向けたいのは,「子どもの育ちの支援」を支える子育ての主体としての「親育ちの支援」という観点である。筆者は「子育て支援」が「子育ちの支援」「親育ちの支援」「親子関係の支援」「子育て環境の支援」という四つの観点から展開され,子どもの最善の利益につながるものとして定義づけられると考えてきた。
こうした観点から子育て支援の現状をとらえると,「親の負担を減らす」という視点はあっても,「親としての育ちを支える」ことによって,子どものよりよい育ちを保障するという方向性を見失っているようにみえる。かつて心配されたように「他人まかせの子育て」にしてはならない。子育てをする保護者が,子どもとともにある生活を主体的につくっていけるように支えたい。
親が親として育つことを支えようという支援に取り組んでいる自治体もある。例えば,高知県では教育委員会が中心となり,県下の公私立すべての保育所,幼稚園,認定こども園を対象とした「親育ち支援」の取り組みを行っている。親育ち支援についての研修を通して理解を深め,保育者で共有するとともに,保育の場における具体的な親の姿をもとに保育者や子育て支援推進員などで事例についてのカンファレンスを行い,親が自ら育っていくための支援のあり方を模索している。
子どもが幼いうちは保護者もまた未熟である。しかし,子育ての初心者である保護者の姿を受けとめ,相談に乗るなどしながら,子どもについての見方を深め,他の保護者とのかかわりや協力の仕方などを身につけ,子どもの育ちや子育てを関係性のなかでとらえられるように育ってほしいと願う。そして,子どもがそうであるように,保育の場で「いつの間にか親として成長している」という支援ができるように,支援のあり方を見直すことが求められる。
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