平成30年1月1日
子どもの貧困と「食」
新潟県立大学教授 村山 伸子この著者の書いた書籍
子どもにとって,生まれた環境にかかわらず,健全な成長が保障される社会でありたい。現在,日本において経済格差の拡大とともに「子どもの貧困」が社会的な問題になっている。子どもの貧困率をみると,2015年は13.9%であり,先進諸国の中では高い水準である。
では,世帯の経済的な状況は,子どもの「食」と関連しているのか? 私たちはいくつかの研究を行い,次のような結果を得た。東日本四県の小学校5年生と保護者約1,200組が対象の調査で,低収入世帯の子どもは,朝食欠食が多く,家庭での野菜摂取頻度が少なく,インスタント麺や肉魚の加工品の摂取頻度が多いという食生活がみられた。
さらに,4日間(平日2日,休日2日)の食事記録からは,低収入世帯の子どもは,それ以外の子どもに比べて,たんぱく質と多くのビタミン,ミネラルの摂取量が少なく,一方で,炭水化物エネルギー比率が高いという結果だった。また,経済的に困難なためフードバンクから食料支援を受けている小・中学生,幼児がいる世帯の調査からは,この結果の背景として,家庭において主食のみで主菜や副菜を伴わない食事が多いことがわかった。
なぜ,世帯の経済状態と子どもの食に関連がみられるのか? 先の小学校五年生のデータから,このメカニズムとして,経済的な制約のために「必要な食物が買えない」こと,時間的なゆとりがないこと,保護者が子どもの健康な成長にとって必要な量と質の食事について知らないことが,みえてきた。
経済的に困難な子どもにどのような影響があるのか? この検証には長期の研究が必要で,今のところ明確な答えはない。しかし,推察できることとして,子どもの成長への影響(必要量に対して過不足が大きい場合)と,おそらくより大きな問題として食経験の乏しさへの影響があると考えられる。主食のみの食事が多いこと,主菜・副菜に含まれる多様な食品,多様な料理を食べていないことは,その子どもが将来大人になったときの食事観(食事とはどのようなものかという概念)に影響する可能性がある。それが次世代に連鎖していくならば,どこかで断ち切る必要がある。
では,どのような対策が考えられるか? 根本的な子どもの貧困の解決のためには,保護者世代の雇用と収入の保障(経済面),ワークライフバランスの実現(時間面)が必要である。一方で,現在ある栄養面の格差への対処として,学校給食の役割が大きいことがわかってきた。小学校5年生の食事記録データから,学校給食がある平日は栄養素等摂取量の格差は消えることが示された。また,長期的には,ここ数年全国で増加している「子ども食堂」(無料か安価で栄養のある食事や温かな団らんを提供する)は,子どもの居場所として,子どもの食体験を拡げ,自己肯定観をもつことにつながり,将来の生き方につながり,貧困の連鎖を断ち切ることにもつながる可能性がある。
子どもの貧困に限らず,社会的な課題に対し,栄養学から何ができるかを示すことが求められている。
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