平成30年1月1日
女子大学,冬の時代?
大阪樟蔭女子大学学長 北尾 悟この著者の書いた書籍
大学関係者には「2018年問題」,つまり18歳人口の推移に伴う大学志願者の減少が憂慮され,将来に向けた大学をはじめとする高等教育機関の経営の不透明感が増している。とりわけ本学をはじめとする女子大学は,マーケットの半分を占める男性をターゲットとしないこともあり,共学校以上に経営の舵取りが難しくなることが必至である。加えて,女子大学の存在意義も問われ,今年度の女子大学連盟の会議でも各加盟女子大学間でさまざまな意見交換がなされた。
日本は世界でも指折りの少子高齢国である。少子高齢化が進むということは,生産労働人口が今後著しく減少することを意味している。生産労働人口の減少は深刻な問題である。人口動態のみならず,AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)など新技術の急速な発展,そしてグローバル化など今後,ますます急速な社会状況の変化が予想される。
このような環境下,女子大学はどうあるべきか? 単純に考えるとその存在が厳しくなり,女子大学不要論がいわれ,負の側面が表に出る傾向にあるが,私はこの社会状況の変化を災厄ではなく恩恵とみなして,今後の女子大学の目指す方向を考えてみてはどうだろうかと思っている。特に生産労働人口減少に女子大学が生き残るヒントがあるとみている。海外からの移民を受け入れることも必要であるが,女性の就業率のさらなる向上が望まれるからである。
2017年のOECDの調査によれば,日本の女性就業率は73.9%で加盟41か国中26位である。年代と就業率のグラフからM字カーブと称されるように,結婚や出産を機に仕事を辞める女性が多い現状がある。また世界経済フォーラム2017年版の「ジェンダーギャップ指数」のランキングは114位である。特に,経済・教育・政治の分野において諸外国に大きく後れをとっていることが浮き彫りとなった。
当然,働き方や教育のあり方も含めた考え方を変えていき,男性も含めた社会全体でワークライフバランスを重視した人生設計に基づいた女性の就業率の向上を図らねばならない。今後,社会制度やインフラの整備を行い,「男女共同参画」で示されるように今以上に女性の地位も向上していかねばならない。
北欧などの諸外国では女性の声が自身の社会進出に大きく影響を与えたといわれている。生涯にわたる女性の働き方を変えるには,女性自らの生涯にわたる学び,学び直しの重要性が増してくる。これまでの教育体系とは視点や発想を転換した女性教育も必要となるであろう。出産・育児を含めた学びやキャリアパスに関する学びをはじめとするこれまでに蓄積された教育研究資源を,さらに深みを増して教育展開していくことに女子大学の優位性があるはずである。こういう現状であるからこそ,女子大学の存在意義が高まると信じている。
大学の社会に果たすべき役割は,「人材育成」と「知的創造活動」である。今後,女子大学は,社会に対する存在意義(ミッション・ポリシー)を提示し,その情報を国民にわかりやすく発信していくことが今まで以上に必要であろう。
目 次
第107号平成30年1月1日
発行一覧
- 第121号令和7年1月1日
- 第120号令和6年9月1日
- 第119号令和6年1月1日
- 第118号令和5年9月1日
- 第117号令和5年1月1日
- 第116号令和4年9月1日
- 第115号令和4年1月1日
- 第114号令和3年9月1日
さらに過去の号を見る
- 第113号令和3年1月1日
- 第112号令和2年9月1日
- 第111号令和2年1月1日
- 第110号令和元年9月1日
- 第109号平成31年1月1日
- 第108号平成30年9月1日
- 第107号平成30年1月1日
- 第106号平成29年9月1日
- 第105号平成29年1月1日
- 第104号平成28年9月1日
- 第103号平成28年1月1日
- 第102号平成27年9月1日
- 第101号平成27年1月1日
- 第100号平成26年9月1日
- 第99号平成26年1月1日
- 第98号平成25年9月1日
- 第97号平成25年1月1日
- 第96号平成24年9月1日
- 第95号平成24年1月1日
- 第94号平成23年9月1日
- 第93号平成23年1月1日
- 第92号平成22年9月1日
- 第91号平成22年1月1日
- 第91号平成21年9月1日
- 第90号平成21年1月1日
- 第89号平成20年9月1日
- 第88号平成20年1月1日