平成30年1月1日
病院のIT化に思うこと
医療法人徳洲会 野崎徳洲会病院事務部長 岸田 敏彦この著者の書いた書籍
私が病院に就職した昭和55年頃はすべての業務がアナログでした。
患者さんが受付に診察券を出されると,下二桁で整理されているカルテ棚からカルテを抜き出し,二号用紙に日付印を押し,時刻を記入し,診療科別の番号札をカルテポケットに入れ,会計ファイルと共に外来診察室に運び,受付が終了します。
診察が終わると,患者さんが会計ファイルを会計窓口にもって来られ,手計算で初・再診料,検査料,画像診断料,薬剤料等を計算して会計を済ませ,処方箋を薬剤部に渡していました。
ところが現在では,ほとんどの病院が電子カルテを導入しています。初診受付にあまり変化はありませんが,再診は自動受付機で受付をし,医師が診察と検査,投薬の指示をし,それぞれが実施されると自動的に会計にデータが送られ,確認だけで会計が終了します。カルテの出し入れ,紛失がなくなり,患者さんの待ち時間も短くなりました。
かつては,1年以上来院されなかった患者さんが夜中に来院した際など,遠くのカルテ倉庫まで探しに行った記憶があります。今ではカルテ探しもなくなり,医療費診査・支払機関へ提出するレセプト(診療報酬明細書)も手を入れずにほとんど完成した状態で,病名チェックにもソフトを導入しています。とはいえ,思うようには効率化が進まず,残業時間は減りません。DPC(包括支払方式)データの整理を含めデスクワークが増えています。
患者さんの薬の待ち時間については,自動錠剤分包機などの導入により少しは短縮されました。画像の電子化(PACS)によってフィルムレスになり,一般撮影・CT・MRI・エコー・内視鏡等の画像を即座に診察室のモニターで確認できます。したがって,大量のX線フィルムを保管する倉庫の必要がなくなりました。
以前は病棟ではカルテ記載のために,医師・看護師・理学療法士・管理栄養士等がカルテを奪い合うこともしばしばありました。今では端末があれば病院のどこにいてもカルテの閲覧・記載ができ,たいへん便利になりましたが,医師・看護師が診察室・ベッドサイドで患者さんと向き合う時間が増えたかは疑問です。
近年,医療費の患者負担の引き上げにより,ますます増大するばかりの窓口未収金が病院経営を圧迫する深刻な問題としてクローズアップされています。その内容を分析すると,現実に収入が少なく分割で支払いをしている患者さんも見受けられますが,最初から支払う気がない患者さんもおられ,特に悪質なのは退職された保険証で受診しようとする患者さんです。クレジットカード同様に保険証をICカード化すれば防げることです。さらにICカードに患者情報と各医療機関での受診歴,投薬歴,検査データが入力できていれば,国民医療費の削減にも大いに貢献できると思います。
病院でのIT化は進んではいますが,他の業種に比べ後れを取っているのが現実です。個人情報取扱上の問題もなしとはしませんが,まだまだ導入可能な領域があると考えています。
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