家政学の科学的根拠に基づいた知識・技術を生活支援を必要とする場(主に介護・看護)で活かそうと試みたのが本書である。各所に資料閲覧のためのQRコードや実践的に学べる多数のワークシートを配した。
内容紹介
まえがき
はしがき
生活支援の基礎を構成する主要な学問分野のひとつである家政学は,人間にとっての基本的な生活とは何かを提示するとともに,家庭生活や地域社会の生活の質を向上させるための知識と技術を提供してくれる。介護,福祉の専門職や看護職を目指す学生にとって,家政学を学ぶことは,「衣・食・住」を中心に人間の生活全般について理解を深め,福祉や看護の現場で必要となる生活支援の基礎知識と実践的スキルの習得に役立つだけでなく,家庭や社会における人間関係について学ぶことを通して,コミュニケーション能力や対人スキルを向上させる。家政学の広範な視点から生活の質を向上させる方法を探究することを通して,福祉や看護の現場で直面するさまざまな問題に対応する力を養うことが期待できる。
もう少し具体的にいうならば,例えば家庭経済の知識については,介護サービス利用者やその家族に年金や生活費,医療費についての不安や保険の利用方法についてのアドバイスを求められれば,不安な気持ちに寄り添いつつ家計の知識に基づき適切な助言を行わなければならない。食生活の支援では,高齢者や障がい者,病人の栄養管理や食事の準備において,栄養バランスの取れた食事を計画し,調理することや,食材の保存方法,調理器具の使い方などにも栄養・調理の知識が必要である。被服生活の支援においても,高齢者や障がい者が快適に過ごせるように,適切な衣類の選択や管理を行う必要がある。季節やTPO に応じた衣類の選び方や,洗濯・修繕の方法に加え,皮膚が敏感な利用者や医療機器を使用する患者に適した衣服を選ぶための知識が必要である。住環境の整備においては,高齢者や障がい者が安全に安心して生活できるように,居室のレイアウトやインテリアの工夫,バリアフリーの設計,事故防止のための工夫が求められ,環境整備のための掃除や整理整頓の方法も知っておかなければならない。
これらの知識や技術は,単なる生活経験から得られるものではなく,家政学による科学的根拠の裏付けによって,専門職としての責任を果たすレベルが担保される。だからこそ,生活支援において,家政学の知識・技術がいかに重要であるか,なぜ学ぶ必要があるのかを理解していただけるだろう。もちろん,専門職としての知識・技術は,対象となる人の生活支援だけでなく,自らの生活自立にも役立つことはいうまでもない。家政学の学びを通して,自らの,そして対象者の生活の質を向上させ,地域社会の生活の質の向上に貢献できることをぜひ知っていただきたい。
本書は,前身書『新版 福祉のための家政学』(中川英子編著,2017年,建帛社)を引き継ぎ,核となる執筆メンバーに新たなメンバーを加えながらも,さらにその前身書である『介護福祉のための家政学』(中川英子編著,2002年,建帛社)以来のスタイルを踏襲している。その一つとして,実際の介護・福祉・看護の現場を想定したワークシートを各章に配し,高齢者施設や居宅,療養施設において支援を必要とする高齢者や障がい者,患者として複数の事例に共通する登場人物を設定し,人物像をイラストとともに示し,事例理解の一助としている。このスタイルは,これまで編者を務められた中川英子先生の呼びかけにより,2000年に結成された「介護福祉のための家政学を考える会」の教育・研究活動において,生活支援における家政学教育のありかたを継続的に検討し,教育効果の向上に努めてきた取り組みの成果でもある。
一方,本書の新たな取り組みとして,本文中に掲載した QR コードを読み取ることによる資料閲覧やワークシート中のエクセルファイルを建帛社のホームページからダウンロードできるようにした。また,生活支援における持続可能性の観点から,SDGs や地域共生社会にも言及している。
今後ますます少子高齢化が進む中で地域共生社会の構築が課題となっており,介護,福祉の専門職や看護職にも,地域社会の中での交流や支え合いを促進する役割が期待される。地域全体の持続可能性を高めるために,地域のイベントやワークショップを通じて,住民同士のつながりを深めることにも,その知識や技術,能力が必要とされることが予想される。そのような地域福祉活動を推進する人材として能力を発揮していくために,家政学の学びが皆さんをエンパワメントすることを心から願い,本書を活用いただきたい。
本書の作成には,家政学の専門家をはじめ,介護・福祉・看護の現場における生活支援に関わる多くの専門家の執筆と協力をいただいた。生活支援とは,専門領域を超えた連携協働によってなしうるものであり,発刊にあたって建帛社編集部の方々にも多大なご尽力をいただいた。お力添えをいただいたすべての方々に心より感謝申し上げたい。
2024年8月
編者 奥 田 都 子
目 次
総 論
Ⅰ.福祉実践における家政学
Ⅱ.介護福祉における家政学
Ⅲ.看護実践における家政学
Ⅳ.加齢・発達・老化による心理・身体・生活の変化
Ⅴ.ワークシート・コラムの登場人物
各 論
Ⅰ.生活経営
Ⅱ.食生活
Ⅲ.被服生活
Ⅳ.住生活
この本をみた方に
おすすめの書籍
-
-
pickup
生活支援技術Ⅰ
平成20年改訂介護福祉士養成カリキュラムに対応した教科書シリーズ。支援技術の構造,生活場面ごとの技術,他職種との連携,ICFの考え方など,具体的な生活を支える介護技術を身につける。
-
-
-
pickup
医療的ケア
介護福祉士および介護職員等が実施できるようになった喀痰吸引等について,医行為であることを踏まえ,安全な実施に必要な知識・技術・価値の習得を目指す。
-
-
-
pickup
新版 福祉のための家政学
蓄積された家政学の知を福祉領域に学ぶ学生に向けて凝縮したテキスト。生活支援のための実践力を家政学の知識と技術を学ぶことで養える。
-
-
-
pickup
介護過程
問題解決思考に拠る介護過程が展開できるよう,事例とその演習を通して情報収集・アセスメント・介護計画の詳細な理解を促す構成。
-
-
-
pickup
改訂 生活支援のための調理実習
高齢者,障害者への食支援をベースにした調理実習のテキスト。改訂版では献立中の栄養価を成分表2020年版(八訂)に基づき全て見直した。
-
書籍に関する
感想・お問合わせ
下記フォームに必要事項をご入力いただき、一旦ご確認された上で送信ボタンをクリックしてください。
なお、ご返信さしあげるまでに数日を要する場合がございます。