建帛社だより「土筆」

平成24年9月1日号

栄養士制度と栄養学教育の今後の課題

特定非営利活動法人日本栄養改善学会理事長 京都府立大学教授            木戸 康博この著者の書いた書籍

 養士の養成は,1924年に栄養学の父といわれている佐伯矩が創設した栄養学校に始まりました。1947年に栄養士法,1952年に栄養改善法(現在の健康増進法)が制定され,栄養士が国家資格となりました。1962年に管理栄養士制度が制定され,1964年には,徳島大学・東京農業大学・女子栄養大学・日本女子大学の四校に学士教育課程がつくられました。2000年に栄養士法が改正され,2002年より新カリキュラムによる管理栄養士養成が開始され,新しい教育を受けた管理栄養士が社会で活躍するようになりました。現在では,管理栄養士養成施設は130施設,栄養士養成施設は176施設であり,これまでに管理栄養士免許を取得した者は約17万人と推計されます。また都道府県知事への届出だけでよい栄養士免許を取得した者は約96万人と推計されます。

 理栄養士の免許取得者は約17万人と推計されると申しましたが,これは,国においても栄養士会においても,管理栄養士免許を取得した者がどこでどのような業務に従事しているかは把握できていないのでこういう表現を取りました。厚生労働省や各自治体が推進する食育,生活習慣病の予防対策,特定健診・特定保健指導等の効率的な推進および疾病の重症化予防ならびにチーム医療に携わる管理栄養士の人材育成が求められているにもかかわらず,これまでに管理栄養士の需給に関する研究や将来のニーズ予測に関する研究は,実施されていません。全国で約96万人と推計される栄養士の需給状況を特定することはきわめて困難な状況です。栄養士や管理栄養士の需給を推定し,社会のニーズに基づく栄養士や管理栄養士の人材育成システムを構築することは,人的資源を有効に活用して社会に貢献させるために,重要な課題であると考えられます。

 養とは,体外から生存に必要な物質を摂取して,それらを代謝することにより発育・成長し生命を維持していく営みであると定義できます。栄養学は,生活の質(QOL)を高めるという積極的な目的をもった学問として,人間と食物の相互関係を総合的に明らかにして人々の健康を保持し,増進することに寄与しなければなりません。

 高齢社会を迎え,生活習慣病が深刻化する日本においては,食品から摂取された栄養素が,人間の体内でどのように利用され,健康の維持・増進,疾病の予防・治療にどのように影響するのかという視点が強く求められます。また,性・年齢,体格,身体活動,家庭環境などの個人の特性や疾病の程度,合併症の有無などによる差異についても考慮する必要があります。

 本栄養改善学会は,2009年に「管理栄養士養成課程におけるモデルコアカリキュラム」を発表しました(『栄養学雑誌』67巻,202-232,2009)。モデルコアカリキュラム作成にあたり,本学会が想定した管理栄養士像は,「人間の健康の維持・増進,および生活の質の向上を目指して,望ましい栄養状態・食生活の実現に向けての支援と活動を,栄養学および関連する諸科学をふまえて実践できる専門職」でした。食を通して人々の健康と幸福に寄与したいという熱意を有し,そのための自己研鑽を惜しまず,専門的な知識やスキルのみならず優れた見識と豊かな人間性を兼ね備えることが期待されます。

 のような要求に応えることができる管理栄養士を養成するためには,管理栄養士養成課程における学部学生教育の理念,教育内容,教育技術等の研究,情報交換を行うとともに栄養学教育者の教育(FD),大学院,卒後初期研修,卒後の継続教育(現職教育)なども重要な課題であると考えられます。また,管理栄養士養成課程だけでなく栄養士養成課程での教育のあり方も重要な課題であると考えられます。

 念なことですが,日本の学術振興会の研究費課題には「栄養学」という項目がありません。栄養学を生活の質を高めるという積極的な目的をもった学問として発展させるためにも,日本の学術振興会において栄養学が位置づけられることを願っています。

目 次

第96号平成24年9月1日号

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