建帛社だより「土筆」

平成24年9月1日

「生きる喜び」をもって

大阪芸術大学短期大学部名誉教授  倉戸 直実この著者の書いた書籍

 師をしている楽しみの一つは学生たちが遊びに来ることである。話していると,育ちや考え方がよくわかる。

〔花子さんのお話し〕

 子(仮名)さんの話しをしよう。彼女は,真面目で「育ちと性格形成」という卒業論文を書き,総代になった学生だ。卒業後は幼稚園の先生を8年間,その後希望して大学職員として2年働き,結婚し長男を産んだ。授業態度もレポートも最高であった。しかし,授業を受けているときも,友達といるときも,少し沈んでいた。実習生に聞けば「花子先生寂しそうだった」という。

 婚をする数か月前に六人のゼミグループで遊びに来たときの写真を見ると少しうつむき加減で笑っている。彼女は結婚しても変わらないのかな,一生静かに生きるのかなと思っていた。ところが,結婚式では天真爛漫に心から笑っていて,そんな笑顔は見たことがなかった。晴れの舞台だからかな? と思ったが,半年後に会っても同様に華やかな笑顔であった。

●変わった原因は?

 的に変わった原因は何だろうかと考えるようになった。原因として考えられることは,①事務職員に変わったこと,②親から離れられたこと,③結婚したこと,④子どもを出産したこと,⑤主体性をもつことができたこと,⑥生きる喜びをもてたことなどであるが,はっきりわからない。今度会ったら花子さんと話してみたい。推測すると,親の呪縛から解放され,しあわせな結婚をして,子どもを出産し,生きる喜びをもてたことであろう。

 きる喜びをもつと,主体性をもって笑いながら楽しく生きることができる。

〔生きる喜び〕

 きる喜びをもち生きることができれば毎日が楽しい。すべての人がもてたらよいと思う。

 きる喜びは両親との生活や保育所で民主的で応答的な環境で育ち身につけるようになる。例えば,歩き出したとき,その様子をみて「ぎこちない歩き方ね」または「ワァー歩いたね」のどちらを言われるかによって敗北感か喜びのどちらをもてるかの分かれ目になる。

 こで保育所では「生きる喜びと困難な状況への対処する力を育てる」(保育所保育指針・平成12年)ように,また,「大人と子どもの相互の関わりが十分に行われることが重要である。この関係を起点として…,子どもとの間でも…,関わりを深め,人への信頼感と自己の主体性を形成していく」(保育所保育指針)。このような人間関係の相互作用の中で育つと「生きる喜びを」 もって生活できる人になるであろう。

 学でも「教えるものにとっては 教える苦労がいよいよ少なくなり,しかし 学ぶものにとっては 学びとるところがいよいよ多くなる方法」(コメニウス)で教えるように努力することになっている。特に幼児教育を学ぶ学生は学習内容が多岐にわたっているので,このような観点からは,必要最低限の学習内容を押さえておくことが大切になる。その意味からも適当な辞書の利用を勧めたい。

 の度発行された『保育者のための教育と福祉の事典』は学生に必要な学習内容をコンパクトに編んだ素晴らしい手引き書となっている。

目 次

第96号平成24年9月1日

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