建帛社だより「土筆」

平成24年9月1日

専門分野に即した大学英語教育のあり方

東京農業大学准教授  寺本 明子この著者の書いた書籍

 本における英語教育は,一般に中学入学と同時に始まり,高校の三年間で一通りの完成をみる。文部科学省の高等学校学習指導要領において,英語科の目標は「英語を通じて,言語や文化に対する理解を深め,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,情報や考えなどを的確に理解したり適切に伝えたりするコミュニケーション能力を養う」ことと謳われている。

 学の英語教育はこうした学習を基礎としているが,延長線上にはない。大学ではさらに専門的な研究活動を行うことを考えると,英語教育のあり方が変わってくるのは自明のことである。

 学に国際競争力が求められる時代となり,その英語教育も多岐にわたるようになった。世界中の書籍やウェブサイトから最先端の情報を得るためには,英語を読む力をつける必要がある。また,英語による専門科目の講義も増加している。就職や進学の際にスコア提示を求められることが増えたTOEICの対策講座も盛んである。

 方,知識を吸収するばかりでなく,世界に発信する力も求められている。東京農業大学では,海外姉妹校からの学生,在籍する外国人留学生,日本人学生が一堂に会し,世界の食・農・環境について考える学生サミットを毎年開いている。

 た,最近インターネット上の動画配信が話題になっているTEDカンファレンスも,英語がもつ発信力の大きさを痛感させる。そして電子メールから学術論文まで,英語ライティングが身近なものになってきた。

 1960年代より,「特定の目的のための英語」(ESP:English for Specific Purposes)が世界中の英語教育者や学習者の間で注目されるようになり,それまで文学的要素に傾いていた大学英語教育にも大きな影響を与えた。ESPは「一般目的のための英語」とは違って,学習者自身の学術的・職業的目標達成に役立つ内容を扱うものであり,共通の目的をもった「ディスコース・コミュニティー」を単位として活用される。大学の学部・専攻も一つの「ディスコース・コミュニティー」とみなすことができ,専門の研究に関する実践的な内容を英語で学ぶ環境があれば,英語力と専門知識の両方を同時に身につけることができる。

 工系の学生の英語学習について考えると,人間の心のひだを描く文学的表現とは違って,事実を正確に伝えることに重きを置く科学的表現を習得することが肝要である。さらに,研究分野によって異なる語彙を学ぶ必要がある。専門課程の学生は,こうした分野に特化した英語を駆使する必要があるが,教養課程においては,専門課程で触れる内容への導入となる英語を学ぶことに大きな意義がある。つまり,食料・環境・エネルギー・健康など幅広いトピックを学ぶことによって,英語力だけでなく,科学的思考の土台や幅広い柔軟な考え方を培うことができるのである。

 べての学びの究極の目的は社会に貢献することであり,活躍が国際的であれば貢献度も高くなる。そうした目的実現の第一歩として,教養課程から専門課程への学びの中で段階を追って,実践的英語力,そして人間力をつけることが,大学英語教育に求められていると考えている。

目 次

第96号平成24年9月1日

全記事PDF