建帛社だより「土筆」

平成24年9月1日

多職種と連携するための教育が必要

埼玉県立大学教授  大塚 眞理子この著者の書いた書籍

 健医療福祉の分野では「チーム医療」や「チームアプローチ」,「多職種間連携」や「協働」など,異なる職種が一緒に働くことに対して様々な言葉が使われている。患者や利用者の援助活動には,連携したり,チームをつくったり,異なる専門職の力の結集は不可欠と言われるようになった。しかしながら,同時にその難しさも指摘されている。

 Interprofessional Work(専門職連携実践:以下IPW)は,専門職同士が互いに学習し合うことと当事者に着目した連携のあり方を示している。異なる専門家が,各自の専門的な視点から得られた情報やアセスメント,目標を共有し,当事者とも目標を共有して協働した援助活動を行うものである。IPWを行うためには,異なる専門職同士が互いに理解し合い,尊重し合うコミュニケーションが必要となる。その教育方法が,Interprofessional Education(専門職連携教育:以下IPE)である。

 IPEは,学生同士あるいは専門職同士が同じ場所で一緒に学び合うことで,他者理解と自己理解を促進する協働を意図した教育である。したがって,この教育は単一の職種を養成する学科単独ではできない。近年,医師や看護師,薬剤師,社会福祉士,栄養士などを養成する学科や学部,大学が連携してIPEに取り組むようになってきた。一人の患者の治療やケアについて異なる学科の学生達が話し合って治療計画やケア計画を立てる演習,チーム医療のあり方を検討する演習,実際の患者に学生チームでインタビューする演習など様々な教育方法が工夫されている。

 のような学習を通して,普段は一緒に学習していない異なる学科の学生達は,互いの相違性と共通性に気がついていく。例えば,看護学生が「患者のニーズは自宅に帰ることだ」と言い,理学療法学科の学生は「患者のホープは歩いて盆栽の手入れができるようになることだね」という。はじめは「ニーズ」と「ホープ」という言葉の相違に戸惑うが,実は同じ意味で使っていることに気づき,着眼点の違いを確認しながら目標は共有できるということを実感する。この気づきには学生同士の話し合いが重要になる。話し合うためのスキルを磨くことにもなる。対話や議論によって合意形成する力や,互いの力を引き出す力なども体験的に学習できる。

 践の場の専門職達は,実は一緒に働いている多職種のことを知らないことが多い。また,専門職として専門的な知識や判断力が高まれば高まるほど,ほかの職種との意見の違いが生じ,対立や葛藤が生じることもある。これらを解決するのがIPEである。IPWを実現するために,異なる職種が一緒に学習する現任者研修としてのIPEを盛んにしていきたい。

 任教育のIPEでは,多職種を理解すること,尊重する態度や相手の言うことを聴き自分を理解してもらうコミュニケーションの見直しが必要である。そして,ほかの職種との意見の対立や葛藤を解決するのは,それぞれが当事者である患者の立場に立っているかを確認し合うことである。連携は当たり前のことではあるが,そのスキルを身につけるにはやはり教育が必要である。

目 次

第96号平成24年9月1日

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