平成29年1月1日
生活防災・安全学のすすめ
大阪市立大学学長補佐/特任教授 宮野 道雄この著者の書いた書籍
東日本大震災の被災地では,災害復興住宅への移動が始まり,ようやく復興への兆しがみえてきたなか,熊本地震が発生し,さらに鳥取でも最大震度6弱の地震が起こるなど被害地震が頻発している。熊本県益城町は前震,本震において立て続けに震度7の揺れに襲われ,多くの住宅が倒壊に至る被害にあった。同じ地域にわが国の最高震度が続けて,しかも28時間という短い間隔で起こったのは初めての経験だった。このような事態を想定した人はほとんどいなかったと思われる。しかし一方で,誰もが想像し得ないことが起こるのが自然災害の常であるといえる。
そこで「災害への備え」のために,私たちは過去の経験に学び,さらにそのうえに想像力を逞しくして,つぎの災害をイメージする必要がある。また,普段は起こりにくい,非日常的な事態に備えるためには日常からの取り組みが重要である。すなわち「日常から非日常へとつながる対策」が求められる。
私たちは誰しも自分が災害に巻き込まれるとは思っていない。しかし,地震のような非日常的な突発災害だけでなく,不慮の事故とよばれる日常災害で毎年4万人もの人々が命を失っている。これは,交通事故や労働災害のほか,本来もっとも安全であるべき住宅内で発生する事故(例えば,階段からの転落,段差でのつまずきによる転倒など)に起因する死亡である。
そこで日常生活の視点から生活空間を見直し,安全化を図っていくことが求められる。
具体的には,イザというときの避難経路でもある階段は,安全性を高めるために手すりを設けたうえで,段の途中や周辺に物を置かないようにするほか,廊下には家具を置かず,あるいは地震による転倒防止策を施すなどの措置を講じて避難路を確保することなどである。
日常生活における階段の安全性を高めておくことは,地震時の身の安全を確保することの前提条件でもある。すなわち,熊本地震では2階建ての木造住宅の1階が崩壊して就寝中の人々が犠牲になったケースが目立った。兵庫県南部地震でも,地震被害に直接的にかかわって亡くなった5,502人の約9割が家屋倒壊などの建物被害に起因していた。そして,犠牲者を出したような大被害にあった住宅について調査した結果によれば,1階の死亡率は2階の死亡率の3~4倍であった。つまり,地震時に身を守るためには1階より2階で就寝することが求められる。しかしその前提として,日常生活での階段の上り下りを安全にしておくことが必要ということである。
また,家具の転倒防止策を施すこと,家具を置かない「安全ゾーン」を住宅のなかに設けておいて,イザというときに身を守る空間を確保することも推奨される。安全ゾーンは,玄関ホールなどのように転倒しやすいものがなく,大きな揺れが収まった後,すぐ外へ避難することができる場所がよい。このように,日常の生活のなかから非常時に備える「生活防災・安全」の考え方を広めていきたい。
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