平成28年9月1日
養殖ビワマスの脂の乗りをよくする飼料開発
長浜バイオ大学准教授 河内 浩行この著者の書いた書籍
私の専門はもともと肉牛の霜降り肉の研究で,飼料により霜降りの割合を上げようとするものです。2009年4月,現職である滋賀県の長浜バイオ大学に着任した際,最初にお話を頂いたのは,県のブランド牛である近江牛ではなく,ビワマスでありました。
ビワマスはサケ科に属する琵琶湖固有種で,滋賀県にとって重要な水産資源の1つです。全身がトロと呼ばれるほど脂が乗っており,琵琶湖の中でもっともおいしいと言われている魚です。しかし,琵琶湖での漁獲量は年々減少しており,また産卵期は禁漁であるため,年中食すことのできる養殖が期待されていますが,天然のものと比べ脂の乗りが劣ることが課題となっています。また,脂を乗せるための飼料に用いられる魚粉・魚油の価格が,世界的な需要増から高騰しており,安価でかつ安全な飼料が求められています。
魚粉・魚油に代わる飼料開発に取り組んでいるのですが,脂の乗りはビワマスの骨格筋内の白色脂肪組織量によって決定されるもので,これは脂肪細胞中の脂肪量の増加,つまり脂肪細胞の分化が大きく関与していると考えられます。したがって,餌により脂肪細胞の分化を促進し脂の乗りを高めることで,肉質の向上が期待できると思われます。脂肪細胞の分化には,リガンド依存性の核内転写因子であるPPARγがマスターレギュレーターとして働いていることが知られています。したがってPPARγのリガンドを与え活性化することにより筋肉内の脂肪量が増加し,脂の乗りの向上につながることが予想されます。
そこで,牧草やハーブ,野菜,果物,さらには食品製造副産物に対しPPARγリガンドスクリーニングを行い,PPARγを活性化させる飼料候補を探索しています。このうち,ある発酵食品の製造副産物中にPPARγ活性化能を見い出しました。地元の養殖業者の協力により,この飼料候補をビワマスに与える肥育試験を行い,大学において食味試験も行い,一定の評価を得ることができました。
また,ウシでは筋肉内に脂肪が入る時期がわかっているため,その時期に脂肪が入りやすい飼料に切り替え効率よく脂を乗せていますが,ビワマスはいつハラス(マグロでいう大トロ)の部分に脂が入るのかはわかっていません。そこで現在,実験動物用のCTを用いビワマスの筋肉内脂肪含有量の測定を行っています。経時的にビワマスのハラスの部分の脂肪含量を計測し,いつ頃からハラスに脂肪が入るのかを特定し,その期間にのみPPARγ活性化能を有する飼料を与え,内臓脂肪量や皮下脂肪量の増加をできるだけ抑え,ハラスの部分にのみより脂の乗った養殖ビワマスの肥育を目指したいと考えています。
このように食品製造副産物を飼料としてビワマスに用いることは,リサイクルという点において現代社会のニーズに合致しています。また,滋賀県内の企業と共同して飼料の開発に取り組むことで,ビワマスの肉質向上と同時にビワマスを活用した地産地消の循環型社会の構築を目指すことができると考えています。
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