建帛社だより「土筆」

平成31年1月1日

教師の好奇心が問われるアクティブラーニング

創価大学教授 鈴木 将史この著者の書いた書籍

 学校の新しい学習指導要領が二〇二〇年度から施行される予定である。今改訂における話題の中心は「アクティブラーニング」という用語であった。最終的には「主体的・対話的で深い学び」という表現になったが、その精神は改訂における中心的な方針として取り入れられている。すなわち、変化の激しいこれからの世の中では、新しい問題に他者と協働しながら取り組み、解決していく能力が必要であり、そのためには学校教育の段階から対話的・協働的な授業を実現する必要があるという考えである。
 在「主体的・対話的で深い学び」を実現する授業の実践を目指し、各養成校で準備が進められている。筆者の所属する創価大学では、中核都市である東京都八王子市の教育委員会との連携事業として、二〇一六年度より「アクティブラーニング推進校」の取り組みを行っている。これは、アクティブラーニングの実践を希望する小中学校から市が数校を推進校として指定し、本学の教員と共同で研究授業の計画・実践を行うという試みである。全国各地でも、それぞれの状況の中で取り組みを模索されていることと思う。
 ころで、小学校はもともと対話的な授業を多く行ってきたという声も強く、文部科学省も、今までと全く異なる授業をしなければならないわけではないと呼び掛けている。しかしながら、何も変えなくてよいというのはもちろん大きな誤りである。では新学習指導要領の求める授業を実践し成果をあげるためには、何が必要なのであろうか?
 の答えを探るには、子どもたちに期待される学びの成果からさかのぼる必要がある。すでに述べたように、新しい授業は、子どもたちが新しい問題にも積極的に取り組み、協力して対処できるような能力を育成するために行われる。そのように考えれば、教室でも児童が「新しい問題」に取り組まなければならないのは当然であろう。
 こで問われるのが、教師自身の「好奇心」である。教師がすでに答えも解決方法も隅々まで知っており、児童がどの道をたどるかを高いところからみているような問題では、児童もそれに気づいてしまい、有効な学習にはなり得ない。新しい授業に必要なのは「思考の喜び」であり、解決したときの「心の震え」である。教師はそのようなフレッシュな問題を児童に提供しなければならない。教師自身が様々工夫して解決の喜びを味わった問題、理想的には教師自身も答えを知らない発展性を備えた問題を与えてほしい。児童が解決を目指して思考をめぐらすとき、教師も寄り添って一緒に喜びを体験できるような問題であってこそ、教室は活性化する。教師の喜びが児童の喜びであり、教師の探究心が児童の探究心である。簡単なことではないが、その姿勢は必ず児童に伝わる。アクティブラーニングで問われるのは、実は教師自身の好奇心がアクティブであるかどうかなのである。

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第109号平成31年1月1日

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