建帛社だより「土筆」

平成31年1月1日

子どもの「食べる」に寄り添う栄養ケア

神奈川県立保健福祉大学准教授 藤谷 朝実この著者の書いた書籍

 食事がおいしいと感じることは幸福感につながります。特に子どもがおいしそうに食べている姿は、周りの人に幸せを感じさせてくれます。食事は幸せという感情のほかに「食べる」ことを通して体内に栄養素を取り込み「生命を紡ぐ」という大きな役割をもっています。そして、「生命を紡ぐ」という目的を達成するためには、おいしいという感情が必要不可欠だと考えています。
 おいしさには、味だけでなく温度や噛み応え・歯ざわりなどの食感や、周りの環境等、様々な因子が関係しています。これらの感覚を通して心地よさを感じたとき、おいしさを認識します。例えば、子どもが初めて食べた肉ジャガが母親の得意料理であり、そのときの母親の笑顔が子どもを心地よく感じさせ、おいしいという感覚につながっているかもしれません。その肉ジャガは必ずしもすべての人においしさを感じさせないかもしれませんが、その子どもと母親にとってはまさしくおいしい食事なのです。
 つまり「おいしく食べる」ことは、子どものおいしいという感情を育て、順調な成長・発達のために体外から物質をとり込むために欠かせないものだということです。そして、これがいわゆる食育の基本であるとも考えています。
 しかし、残念なことに「食べる」ことに支援や配慮が必要な子どもたちもいます。近年は低出生体重児の増加や出生時体重の低下などの問題のほか、発達障害や自閉症の子どもも増加している傾向にあります。また医療の進歩によって、先天性の代謝障害児の多くが救命できるようになってきています。
 健康上の課題がなく元気な子どもたちの多くは「おいしく食べる」ことで、健やかに育っていきます。しかし、低出生体重児は成人後の生活習慣病に罹患しやすいという疫学調査結果(DOHaD説)や自閉症の子どもの偏食、発達障害の口腔過敏等の問題に加え、先天性代謝障害では生命維持に最も優先させるべきエネルギーの補給が困難な子どもも少なくありません。
 こういった子どもたちには、身長や体重といった身体状況に加えて、臨床検査の結果、食事摂取量や排せつ、食事環境などのほか、実際に食事を摂取している状況を評価・観察することによって一人ひとりの栄養状態の評価を行い、食事摂取上の課題を改善していくことが、子どもの順調な成長・発達にとって重要となります。また、子どもの栄養状態は成人期まで影響を及ぼす可能性もあり、栄養評価に基づいた具体的な栄養介入計画と多職種によるアプローチが求められています。
 子どもの食事は大人に依存しており、子どもが適切な食事をとるためには大人の支援が必要です。障害のあるなしにかかわらず、子どもたちがその子なりに成長・発達していくためには、機能的・生理的評価を考慮に入れた栄養ケアの実践が必須であり、可能な限り子どもの「食べる」に寄り添い支えることは、管理栄養士の役割のひとつであると感じています。

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第109号平成31年1月1日

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