平成31年1月1日
「人生百年」時代の社会保障
武蔵野大学名誉教授 川村 匡由この著者の書いた書籍
新たな元号がスタートする新年にあたり、名実ともに「人生百年」時代に向けた日本の社会保障のあり方を展望してみたい。
周知のように、日本の平均寿命は男女とも九十歳近くになったほか、百歳以上の高齢者も約七万人に達している。このため「人生百年」時代を迎えたといえないこともないが、その中には延命治療で闘病生活を送っておられる方も少なくない。健康寿命はまだまだ七十~八十歳にとどまっているのである。
そこで、名実ともに「人生百年」時代を迎えるためには、国民一人ひとりが今後も健康の増進や疾病の早期発見・治療に努めることはもとより、終末期を迎えた際、どのような形で死を受け入れるべきか、判断能力のあるうちに家族や主治医などに伝えておくことが大切であろう。これが二〇〇〇年の介護保険制度の創設と併せ、導入された成年後見制度をはじめ、生前整理や遺言、葬儀、相続などの「終活」である。
折しも、先送りされていた消費税の八%から十%への引き上げの是非が国会で審議され、その成り行きが注目されている。その一方で、国と地方の長期債務残高が二〇一八(平成三十)年度末現在、千百七兆円に上る中、年金や医療・介護・子育てなどを中心とした社会保障給付費の縮減ばかりが論議されている。
しかし、これまで消費税収入の何割が社会保障の財源として使われてきたのか。また、高度経済成長期と変わらぬ土建型公共事業の復活、また、大企業優先・地方切り捨て・対米従属の政策が進められているように思われる。
このような状況を踏まえれば、国民主権・基本的人権の尊重・平和主義を三大原則とする日本国憲法第二十五条に基づき、私たち国民が負担する租税や社会保険料を財源に、社会保障本来の機能される所得の再分配を通じ、すべての国民に対して生存権を保障すべく、年金や医療、介護、子育てなどの充実はもとより、防災・減災など災害対策の強化、地域活性化、国際社会の平和に貢献する政治・経済政策への転換が図られるべきであろう。
その意味で、昨年、建帛社より刊行させていただいた『社会保障』『相談援助』(福祉ライブラリ)の両書が名実ともに「人生百年」時代に向けた社会保障の充実、防災・減災など災害対策の強化、地域活性化、国際社会の平和に貢献すべく、ソーシャルワーカーを志望する学生や大学院生、研究者、さらには広く国民にとって参考となれば編著者としてこれにまさる喜びはない。なぜなら、社会保障は日本の政治・経済・社会システムの根幹をなす制度・政策だからである。そのためには国民一人ひとりには消費税を含む税金や社会保険料の使途を見守っていく使命がある。
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