建帛社だより「土筆」

令和4年1月1日

栄養学の学術としての確立と地球規模の課題

特定非営利活動法人日本栄養改善学会理事長 新潟県立大学教授 村山伸子この著者の書いた書籍

 ,持続可能な地球,誰一人取り残さない社会の実現が世界共通の課題となっています。そのベースにあるのが,地球環境の健康と人間(人類)の健康であり,栄養という営みはその両者の接点であると考えます。したがって,栄養学の発展と学術としての確立は,こうした地球規模の課題への対策に貢献していくことにつながります。

 本栄養改善学会では,これまで栄養学の学術としての確立をめざして,他学会等と共同して研究面,教育面での体制整備を行ってきました。2017年に日本栄養学学術連合が発足し,文部科学省の大学設置・学校法人審議会の大学設置分科会に「栄養学専門委員会」が設置,2018年に科研費の小区分に「栄養学および健康科学関連」が置かれました。これらの体制整備を受けて,栄養学の学術としての確立のための実質化に取り組んでいます。ここでは,その内のいくつかを紹介します。

.国内の人材育成と共同

 本栄養改善学会では,厚生労働省からの委託を受け,2017年度,2018年度に「管理栄養士・栄養士養成のための栄養学教育モデル・コア・カリキュラム」を作成しました。2019年度は本カリキュラムの活用支援ガイドを作成し,2020年度にオンライン研修会を実施,栄養学の人材育成を進めています。

 た,実践的な栄養学研究の推進と人材育成を目的として,実践栄養学研究セミナーを支部会で実施しています。実践現場の管理栄養士・栄養士や,大学等に勤務する若手の研究者が,実践現場で必要な研究をする方法について学ぶ場になっています。

 らに,2021年11月から将来構想ワーキングを立ち上げ,中長期的な学会のあり方を検討すると共に,特に若手研究者や実践者のネットワークづくり等を検討。これらを通して,日本全国の研究者と実践者をつなぐ共同研究が展開され,それは人材育成と共に栄養学の学術としての確立に寄与することになります。

.国際的な人材育成と共同

 021年~2022年は,日本の栄養学の歴史のなかでも特に「国際化」が迫られている時期といえます。2021年12月には,日本政府主催で東京栄養サミットが開催されました。栄養サミットは,2012年にロンドンにて地球規模で栄養課題について取組を進めるため「成長のための栄養(Nutrition for Growth:N4G)」をイニシアチブとして開始されました。東京栄養サミットでは,各国政府,国際機関,企業,市民団体などが,世界の人々の栄養改善について議論し共有すると共に,自らが実践する内容を誓約(コミットメント)として発表。日本栄養学学術連合としては,次の趣旨のコミットメントを発表しました。「各学会がこれまでに取り組んできた日本の栄養課題解決に関する研究成果を整理し,栄養問題の二重負荷に対する日本の食事の有効性のエビデンスを提示すること,エビデンスに基づいた栄養改善を研究から実践につなげる人材を育成することで,世界の栄養課題の解決に資する。また,その進捗を国際栄養学会議やアジア栄養学会議で報告し,ワークショップ等を開催して情報提供と新たな候補者のリクルートにつなげる。」

 じく2021年12月に,日本学術会議IUNS(国際栄養科学連合)分科会,日本栄養改善学会,日本栄養・食糧学会,国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所が共同主催で,第四回IUNS栄養学のリーダーシップ育成国際ワークショップを実施しました。このワークショップは,食品・栄養学研究にかかわる人材育成とネットワーク形成を図り,食と栄養を通じた人々の健康維持・増進を目的として2010年,2014年,2017年に実施されてきました。参加者は日本を含めアジア各国の若手研究者,大学院生が中心となっており,ワークショップをきっかけに,その後の研究交流等に発展します。

 らに,2022年12月には,第22回国際栄養学会議が東京で開催されます。日本学術会議,日本栄養・食糧学会,日本栄養改善学会が共同主催となり,「栄養学の力で百億人を笑顔に!」をテーマに準備を進めています。

 上,冒頭の地球規模の課題への対策に日本の栄養学が貢献するために,国際的な共同と共に日本の各学会や栄養学を研究,実践する人が共同して,人材育成をし,栄養学の研究および実践の質の向上をすることが重要であると考えます。

目 次

第115号令和4年1月1日

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