建帛社だより「土筆」

令和4年1月1日

SDGs・食育基本計画とスポーツ栄養

日本スポーツ栄養学会会長 高崎健康福祉大学教授 木村典代この著者の書いた書籍

 DGsや環境問題に関する情報を目にする機会が今まで以上に増えてきている。SDGsは貧困に終止符を打ち,地球を保護し,すべての人が平和と豊かさを享受できるようにすることをめざした普遍的な行動を呼びかけるものである。ここで掲げられている17の開発目標には栄養・食・健康にかかわるものも多い。さらに,令和3年に発表された第四次食育推進基本計画においても,基本的な方針として持続可能な食を支える食育の推進が掲げられている。このような流れのなか,スポーツ栄養の分野でも,身体活動量の多い対象者や専門的にスポーツを行う人に対し,世界や日本が掲げているこれらの目標に調和しつつ,どのように向き合うべきかを考えさせられる機会が増えた。

 和3年に開催された第68回日本栄養改善学会学術総会の教育講演,リレー特別講演にて「持続可能な食」の話題が取りあげられた。日本の食事は温室効果ガスの排出量が少なく,世界の食生活改善に貢献が可能であることが紹介されていた。この話を聞きながら,東京オリンピック・パラリンピックでは,世界各国から集まってきたスポーツ選手やその関係者の方々に,この日本食のすばらしさを知ってもらえるよい機会になっていたのかもしれないと感じた。

 方で,世界や日本がめざす開発目標や食育推進基本計画と,スポーツ栄養がめざしている方向が逆を向いている点があることも感じた。例えば,赤肉(家畜肉)や乳製品といった動物性食品の摂取は,良質なたんぱく質やミネラル類の補給源となり,スポーツ現場の栄養補給計画・栄養指導においては,とりわけ摂取を意識させている食材であるが,環境面からみれば,温室効果ガスの排出が多い食材である。合宿や遠征期間などでは,個別包装した便利な食品を用いる機会も多い。食料の廃棄を減らすことが重要であるにもかかわらず,ビュッフェ形式で自ら選択した料理を口にあわないと言って残してしまう選手も散見される。

 れらのうち,少なくとも誰もがすぐに取り組めることは,食品ロスへの対策であるが,選手層が低年齢化してきている競技団体もあり,食の大切さを先輩選手,指導者,保護者から十分に伝え切れていないことも課題である。スポーツが,誰からも愛され,親しまれ続けるためには,競技力向上のみならず,持続可能性に着目しつつ,環境にも目を向けた食教育と食の提案が求められると感じている。

 しは少し変わるが,第四次食育推進基本計画のなかには,食育の推進にあたっての目標項目として食塩摂取量の平均値を下げることや減塩等に気をつけた食生活を実践する国民を増やすことがあげられている。食事からの食塩のインプットを減らすことは生活習慣病予防の点で重要だが,身体活動量の増加により汗を介した塩分のアウトプットを増やせれば,味付けの可能性を広げ,食べる楽しみを増やすことができるかもしれない。ここでスポーツの意義を改めて見直し,次のフェーズの食教育と食の提案へ挑戦していきたい。

目 次

第115号令和4年1月1日

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