建帛社だより「土筆」

令和4年1月1日

医療的ケア児と家族の支援に関する法律の施行と医療保育

日本医療保育学会理事長 藤女子大学教授 吾田富士子この著者の書いた書籍

 イバーシティを掲げた東京パラリンピックが終了し,LGBTQが日常的に語られ,日本でも共生社会への歩みがさまざまな分野で見受けられるようになった。そのようななか,成立したのが「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(令和3年6月公布,9月施行)である。

 学の進歩により,日本は新生児死亡率が最も低い国のひとつとなっている。一方,日々の生活を営むために日常的に医療的なケアを必要とする子どもたちは増加している。こうした子どもたちが在宅で暮らし,ほかの子どもと共に保育や教育を受けることはきわめて難しい現状にある。

 日,教え子である元保育士が医療的ケアの必要な我が子の保育のために,療育施設,幼稚園,保育所,市役所,教育委員会等,各部署に相談し,その都度,情報が錯綜し,希望が得られたかと思えば落胆することを繰り返し,「医療的ケア児がさまざまな子どもと共に保育を受けたいと考えることは間違いなのだろうか」と尋ねてきた。その都度励まし,入園内定をいただいたのは半年後のことである。こうした多くの親子の存在が,この法律成立の背景にある。

 の法律では「医療的ケア児」を次のように定義し,医療的ケア児の日常生活および社会生活を社会全体で支えることを基本理念とし,保育・教育を行う体制の拡充,相談体制の整備など包括的な支援体制の構築を国と地方公共団体の責務として明記している。

「日常生活及び社会生活を営むために恒常的に医療的ケア(人工呼吸器による呼吸管理,喀痰吸引その他の医療行為)を受けることが不可欠である児童(18歳未満の者及び18歳以上の者であって高等学校等に在籍する者)」

 行にあたっては,医療的ケア児と保護者の意思を最大限に尊重すること,高等学校を卒業し医療的ケア児でなくなった後の相談も含め,切れ目ない支援を行うことが示されている。また,保育所等には保健師,助産師,看護師等の医療専門職の配置,喀痰吸引等を行うための保育士の配置やそのための研修,学校には保護者の付き添いがなくとも必要なケアが受けられるよう看護師等の配置の整備も記載され,最大限の配慮をもって教育が受けられるよう支援する旨が明記されている。さらに,都道府県知事には医療的ケア児支援センターを設置し,医療,保健,福祉,教育,労働等に関する関係機関と連携のもと,情報提供や助言,支援を行うこととされている。

 気の子どもの保育を担う病棟保育士等で組織された日本医療保育学会では,医療が必要な子どもに寄り添い,保護者支援を担うなかで医療保育の専門性を追求してきた。医療現場で培った保育の専門性は,医療的ケア児の保育のためにも生かされるだろう。保育の場において,多様な子どもたちや保護者と出会うなかで,保育者に求められる専門性は今後ますます多岐にわたっていくと考えられる。

 ・自治体,関係機関が共に新たな課題に真摯に向き合うことで,真の共生社会が構築されるであろう。

目 次

第115号令和4年1月1日

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