建帛社だより「土筆」

令和4年1月1日

子どもの創作絵本

梅光学院大学特任准教授 寺井知香この著者の書いた書籍

 どもがつくる手づくりの絵本(以下,ここではその子がつくる唯一無二のものという観点から創作絵本と表記)の活動は,保育の現場で広く散見される。遊び時間に自由に自らが絵本をつくって遊び,絵のみの絵本であったり,絵と文字で構成されていたりと子どもの発想に任せ思いおもいに創作するものから,保育者が意図をもち保育のなかで取り組むものもあり,さまざまだ。

 た,製作の工程も多様である。子どもが自分でストーリーを考え,絵も文字も自分で書きあげるものから,保育者が子どもの思いを聞き取り,子どもの言葉を文字に起こしていくものもある。個人でつくるものがほとんどだが,集団で製作する場合もある。描画に関しては,子ども自身がクレパスやマーカーなどの筆記用具を使い描くもの,コラージュ技法等の技法を使って挿絵を表現するものもある。近年では,パソコンを使うデジタル絵本を製作している園もある。

 のように多岐にわたる創作絵本づくりであるが,筆者が保育現場でその活動に携わってきた経験から,ストーリーのつくり方には共通点がみえる。それは,その土台にあるものの多くが,それぞれ子ども自身の経験に基づいているという点である。

 どもはストーリーを考える時,「無」からの発想はごくわずかで,そのほとんどは自分の体験や,内的感情に基づいている。体験は,生活体験や願望する経験であったり,常日頃自分が抱えている気持ちや考えであったりもする。それらの体験や心情を基点にストーリーを展開し創作していくことが多く,主人公というキャラクターを通して自己を表現していると考えられる。言い換えると,主人公は自分自身である。

 育者は子どもを理解しようとする時,目にみえる行動や言動から「こうであろう,こう考えているであろう」と推察していく。また,その子のエピソード記述,保育記録からも推察を重ね,それらを子どもの理解につないでいく。しかし,自分の気持ちや考えをうまく伝えきれない,また思いとは違う行動をとってしまいがちな子どももいる。その子らの内的心情を推し量ることは難しい。

 ども自身による創作絵本の多くは,その子自身の内的感情を表出していて,ナラティブとして自己を語っている。その絵本を読み解くことで,より深い視点でその子を理解することができるのではないかと考える。

 者は保育現場で,十年間子どもたちと創作絵本づくりの活動をしてきた。その間約1,000冊以上の子どもの創作絵本に出会ってきて,創作絵本は楽しい,面白いという単純なものだけではなかった。このなかに,作者自身が生きている,また子ども自身の息づかいが聞こえるようであった。子どもの思いを読み解く(深く理解しようとする)うちに,保育者が気づかなかった子どもの一面を知ることができ,そしてそれらを日々の保育にいかすことができた。

 うした活動を続けてきた経験から,子ども自らが自分を発信する創作絵本は,子どもの育ちを支え,保障するうえで大きな役割を担い得るものと考えている。

目 次

第115号令和4年1月1日

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