建帛社だより「土筆」

令和4年1月1日

コロナ禍後の大学における教育DX(デジタルトランスフォーメーション)とそこに求められる教員の資質向上

文教大学学長 中島 滋この著者の書いた書籍

 年,DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉をよく耳にする。企業におけるDXとは,DX高速インターネットやクラウドサービス,人工知能(AI)などの情報技術(IT)によってビジネスや生活の質を高めていくことであり,単なるデジタル化やIT化とは異なる一歩進んだ変革であり,すでに多くの企業が取り組んでいる。

 学での教育DXにおいても,遠隔授業以外に,学習管理システム(LMS)を導入して全カリキュラムに関して学生の習熟度を把握する時代となっている。さらに蓄積された学生の習熟度をAIで解析し,学生個人に最適化された教育,すわなち,習熟度別学習や履修指導の実現をめざすことも可能となってきた。

 型コロナウイルス感染症拡大の影響により余儀なくされた遠隔授業だが,「教員と学生や学生間のコミュニケーションがとりにくい」等の消極的な声がある一方,「繰り返し学修できる」,「場所の制約がない」,「何回も視聴可能である」,「授業の記録を残しやすい」等の積極的な声もあった。今後は,オンデマンド型と対面授業を組み合わせたブレンデッドラーニングや,対面授業と遠隔授業を受ける学生が共存するハイブリッドクラスルームが有効な授業方法となると思われる。

 レンデッドラーニングでは,オンライン授業で自ら熟慮し,対面授業で熟議を促すことで,より主体的な学習が可能となる。また,ハイブリッドクラスルームでは,大学間に留まらず,オンライン留学も視野に入れたさまざまな交流が可能である。今後,各大学で多様な教育DXが実施されるであろう。

 こからは私見となる。大学教育における教育DXが有効に機能するためには,教員や学生のデジタル化やIT化に関するスキルの向上が必要だが,それ以上に,教員が襟を正して真摯に自らの資質向上に努めることであると思う。つまり,学生から信頼される教育・研究者であることが一番大切である。大学の教員は研究者であると同時に教育者でもあり,研究成果を教育に還元することで魅力ある教育が行われ,学生からの信頼が得られる。大学教員の専門分野は多岐にわたる。その業績評価は分野により異なるが,大切なことは,自分の専門分野で独創的な研究成果をあげ,それを授業に取り入れることである。

 たない例だが,私は長年「肥満防止」の研究を行っており,栄養学や衛生学分野でその成果を学生に伝えている。日本では欧米と比べ,なぜ肥満者が少なく長寿につながっているのか等,他大学では行えない授業を心がけている。この大学(先生)でなければ学べない授業,その授業を行うための独創的な研究,これらは従来から教員に求められていたものであるが,教育DXが進み,教員と学生の信頼関係がより一層求められるこれからの時代であるからこそ,教員は襟を正して真摯に研究を行い,その成果を教育に反映することが肝要であると考える。

目 次

第115号令和4年1月1日

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